小説

『三びきの萌え豚ずきん』小野寺工(『三びきのこぶた』『赤ずきん』ほか)

「お、おおかみがきたぞおおお!」
 毛むくじゃらの手、大きな耳、大きな口、あっ、どうしよう、死ぬ、とパニックになって、なぜか対応のボタンを押してしまった。ぴぎゃあああああ、と泣きべそをかきながら、おそるおそる、相手の話を聞くことにした。
「ずきん、おばあちゃんだよ、開けておくれ。」
 声はまんま自分の知っているおばあちゃんそのものであるのが恐ろしい。
「ひっ…、お、お引き取りください」
「なんでそんな寂しいこと言うんだい、ひさしぶりじゃないか。お前が家を建てたと聞いて、とっておきのお酒も持ってきたんだ。一杯やろうじゃないか」
 えーんなんでこんなにばれてるの~~~、食べられちゃう~~~お酒は勝利の美酒ってやつ~~~と泣きわめいていた。
「このマンション、危険なの。崩れたら危ないから、おばあちゃんはもう近づかない方がいいよ」
「そうなのかい?じゃあずきんも危ないから、おばあちゃんといっしょにいよう?」
「僕はだいじょうぶ…」
「しんぱいだよ、おばあちゃんの家は立派だから危険じゃないよ、ネットワークだって、音響だって最高な環境だよ」
 なんでそんな魅力的な環境を狼が持っているんだ。
 狼が関わる話は大抵誰かが不幸になる。
 そのうち家に侵入されなければ、誰も傷つかない有名な例が赤ずきん、三匹のこぶた、狼と七匹の子ヤギに代表されるものである。
 僕は末っ子で、三匹の中では一番頑丈に家をつくった。煙突もないし、きっと侵入はできない。けれどもこの家は建て直さなければいけない、欠陥住宅だ。一息で壊されてしまうかもしれない。
 よくある、『狼さんはぷーぷー息を吹きつけて豚の家を吹きとばし、豚を食べてしまいました。』になるわけにはいかない。そもそも、いままではすけーぷごーと☆せぶんのショッキングな内容と教訓を踏まえて、「誰が来ても、決してドアを開けてはいけませんよ」を守り続けているのだ。なんといっても狼だ。狼なんか怖くない、ではない。めっちゃこわい。
「開けてくださいよ…」
 インターホンごしに狼が言った。もうおばあちゃんのふりはやめたらしい。声はそっくりだったが、顔が見えては意味がない。料金請求だろうが宗教だろうが、たとえ親、兄弟でも開けない強い意志を持っているのだ。デットオアアライブ。ここで引くわけにはいかない。
「お帰りください」

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