小説

『三びきの萌え豚ずきん』小野寺工(『三びきのこぶた』『赤ずきん』ほか)

「そんな…」
 衝撃だった。こんな幼い子たちが家を追い出されるなんて。
「僕は三兄弟で、一人ひとりで家をつくって住むように言われて、実家は追い出されちゃったんだけど、そっか…。もしよければ、ここにいていいよ。僕はずっとここにいるから、君たちを置いていかない」
「ほんとうですか!ありがとうございます!」
 ぎゅーっと手を握られて、握手なんて初めてしたかも、と思いながら、これからのことを考えた。どうやら生活サイクルはまともになりそうである。
 二人をベットにつかせたが、子守歌が思い出せなくて、小さいころよく見てたすけーぷごーと☆せぶんの曲を口ずさむ。
「なんの曲?」
「スケナナっていうアニメのオープニング曲だよ。正式名称はすけーぷごーと☆せぶんっていうんだけど、よければ一緒に見ようね」
「うん、興味がわいたらみたいな。ねえ、親切にしてくれてありがとう」
「どういたしまして」
 ヘンゼルとグレーテルが寝たのを見届けてから、ふと考えた。
 お母さんは元気にしているだろうか。実家はシェルターのようだったから、外に出なければ安全な気がしていたけれど。追い出されたときに見た、養成の文字を思い出すたび、おばあちゃんなのか、お母さんなのか、魔女だったのではないかと思ってしまうのだ。または留置所だったかもしれない。もしそうなら食べられないように助け出してくれたはずなのに、おかしな話である。
 その後、ヘンゼルは正直な青年になり、きこりとして生計をたてた。金の斧、銀の斧を授けられた彼は、それらを売り、グレーテルの花嫁道具を買った。グレーテルは近くの山に嫁ぎ、すずめやねずみに、豚がしてくれたことを返そうとごはんをあげ、裕福になった。それらを豚たちの家にも送り、彼らは幸せに暮らした。



 三匹目の豚は、広大な土地に、とても大きなマンションを建てた。各階ごとにコンセプトがあり、学園もののセット、お隣の幼馴染のセット、戦国時代のセット、海の見える町のセットなどを準備し、構想から施工まで、とても時間をかけた。
曰く、「推しがたくさんいるってわけじゃなくて、推しをいろんなシチュエーションでみたい、推しを満喫したいんだよねえ」とのことであった。
 しかし、やっとできたこのマンション、実は手抜き工事だったことが発覚し、泣く泣く解体することが決まった。キューピッグの最終回をさめざめと泣きながら観ていると、ピンポ~ンと音が鳴った。豚はなにか頼んだかな?おかしいな、業者に外で買ってきてもらい、宅配ボックスに入れてもらって、お金はネット振り込みのはずなのに。初めてつかうインターホンの画面を見ながら、相手を見る。

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