小説

『三びきの萌え豚ずきん』小野寺工(『三びきのこぶた』『赤ずきん』ほか)

 豚たちは引きこもりだったので、いかに生活を快適にするかを考えながら、家事にいそしんでいた。そのためぴかぴかの家に女は驚いた。
 囲炉裏を囲んで暖を取っていると、女が話し出した。
「親切にしていただいてありがとうございます。」
「いえいえ、こちらこそ吹雪で少し参っていたんです。いつも家族がいたので、怖くなってしまって。いてくれて心強いです。」
「それならよかったです」
 うふふ、と答える女はとても美しかった。
 豚は、すごい!雪山遭難が起こっている!!現実で!と不謹慎ながら内心大はしゃぎであったが、紳士的な対応に努めた。
 こちらの部屋で寝てください、と案内すると、女は「いいというまで、絶対に見ないでくださいよ、絶対ですからね」
 としつこく釘を刺してきた。
「わかりました、見ませんよ。あったかくして、おやすみになってください」
 もちろん雀の涙ほども見る気はなかったが、こんなに言われるのかと思うと興味がわいた。
 しかし、今日は半年前から楽しみに待っていた、「愛の狩人キューピッグ」の放送開始日だった。原作開始から読んでいたものとしては、これを逃す手はない。
 彼女がもし、「風の音が怖いから…、そばにいてくれませんか…?」といった場合でも、隣で見始めて、熱弁をふるってしまうだろう。きっと、部屋を全裸で開けにいくより引かれる気がする。
 ヘッドホンをして、はんてんを着て、いざ視聴をした。
 気が付いたら陽が昇っていた。アニメはやはりおもしろいなあ、と思いながらパソコンを閉じた。三回繰り返し見て、声優が、脚本が、作画が、と話したり、今後の展開について話すのはやはり充実した気持ちになる。
 はあ、幸せ。寝よう。
 寝室に向かおうと立ち上がると、ふと女のことを思い出した。キューピッグのヒロインと似てたことではなく、開けないで、と言われていたことである。
 女の寝室をトントンと叩き、「おはようございます。申し訳ありませんが、僕は今から寝ます。囲炉裏におむすびを用意しておきましたので、よろしければどうぞ」
 すると、すーっとふすまが開き、女が出てきた。
「あ、おはよう」
「おはようございます、泊めてくれたお礼に、機を織らせていただきました。どうぞお売りください」
 ずっと寝ていなかったのか、青白く、つかれた印象がある。それに、すこし変化が解けているようで、着物のすそからは白く長い羽根がのぞいていた。化粧もして、贈り物をしてくれた相手にそれを指摘するのは畜生の所業だろう。
「ありがとうございます。ありがたく頂戴します」
 にこ、と笑って受け取り、居間に飾った。すばらしい出来の機であった。

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