小説

『三びきの萌え豚ずきん』小野寺工(『三びきのこぶた』『赤ずきん』ほか)

「わたし帰れないんですよ、入れてください」
「帰ってください」
「幼いころから一目会いたいと思ってたんです」
「入れません」
「ぐぬぬ、仕方ない、ぷーぷー息を吹き付けて、あなたの家を吹き飛ばします」
 インターホンから狼の姿が消えたかと思うと、すうっと息が吸い込まれた音がした。
「ぷううううううう!!!」
 大気がびりびり震えるハイパーボイスを聞いて、豚は転がり落ちるように外へ飛び出した。
 家が壊れる!!
 それもあるけれど!
 息を切らせながら、狼と対面した。
「あの!大神フウコさんですよね!キュービッグ最高でした!」
「え…」
「最終回とっても感動しました!まさかキュー様があんなことになるなんて!」
「その…」
「デビュー作からいいなって思ってました!お会いできて光栄です!」
 熱心な豚と対照的に狼は不安になっていた。
「わたしのこと、こわくないの?」
 はっ、と豚は身じろぎをしたが、狼の手を取って言った。
「あなたが狼なら、こわくない」
 豚のファン根性もさることながら、実際は小さいころすけーぷごーと☆せぶんの歌を三びきのこぶたが歌っていたのを聞いて、あの家の子と仲良くなりたいなあ、アニメの話とか、歌のこととかお話ししたいなあ、と思って、声優になり、いまでも豚を追っていた狼もなかなかの根性であった。声優養成所として豚の実家に通っていたそうだ。
「でも、食べないでください…」
「食べないですよ!!」
 狼のその鶴の一声で、マンションはがらがら音を立てて崩れてしまった。

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