小説

『20番目の女』籐子【「20」にまつわる物語】

「美恵子は最近どう?いい男捕まえた?」
「捕まえるって、狩りじゃないなんだから」
「何言ってんの。この年齢になったら恋愛は狩りよ。女の需要と男の供給のバランスが全然合わなくなるんだから」
「それ言えてる。供給が少なすぎて怖いもん」
「ま、美恵子は焦らなくても絶対良い人が見つかると思うけど」
「そうやって、すぐ甘やかす」
「美恵子を甘やかすの、私の大好物だからね~」
 優未はその整った顔をくしゃくしゃにして笑った。それは、優未が心を許している証。この顔を見られるのは、きっと私とカピバラさんだけだ。その顔を見て、私も思わず笑った。
 彼女はいつもそのくしゃくしゃの笑顔と、恥ずかしくなるほどの優しい言葉で私を甘やかし、私の凝り固まった頭を緩めてくれる。私の一番の理解者だ。

 そういえば、亮平さんもそんな人だった。
 離婚をした後、友人の結婚式で出会った亮平さんは、決して自分の意見を押し付けず、心地の良い空間を作ってくれる大人の男性だった。既婚者ではあったが、その紳士的な見た目と行動から、遊び人という印象を与えず、私はどんどん彼に惹かれていった。
 彼との交際は3年程続いた。しかし、彼の中にはいつも奥さんの影がある事は確かだった。初めから覚悟の上だったのに、それが透けて見えてしまう事に私は疲れてしまい、自然と関係は終わった。

「最近良い感じだった、若い子は?」
「あー、健ちゃん?28歳、新婚1年目のルーキーね」
「28かー。ま、男だったらまだまだ遊び足りないよね」
「新婚だし、奥さんもすごく優しい人らしいのに、全然家に帰りたがらないのよ。何の為の結婚なんだろ」
「結婚は、優しさが1番大事だけど…」
 優未は、わずかに言葉を詰まらせた。
「優しさだけでも、そう上手くいかないんじゃないかな…」
 優未の顔色が少し暗くなったように見えた。
「そういうもの…かもね」
 私は前の夫の事を思い出していた。優未も、カピバラさんの事を考えているのだろうか。少しの間、私たちの間には沈黙が訪れた。

 今の若い人たちにとって、結婚とはなんだろう。

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