小説

『20番目の女』籐子【「20」にまつわる物語】

 そう言って、ガハガハと鼻息を立てながら笑った。
 そんなしょーもないステータスに私たちを利用するなとも思うが、所詮世の中の人間が思うホステスの利用価値なんてそんなものだ。何も気にせず私も笑った。
 でも優未は違った。
 彼女は妙に真面目な顔をして言った。
「利用する男と利用される男、部長はどちらが良い男だと思いますか?」
「そりゃ利用する男だろ。利用される男なんて男の風上にも置けん」
 優未は何度か軽く頷いた。
「では、虎の威を借る狐ってご存知ですか?」
「もちろん知ってるが、それがどうした?」
「あの狐と虎って、どっちが利用する男で、どっちが利用される男だと思います?」
「そりゃ利用する男が狐で、利用される男が虎じゃ…」
 言いながら、ハゲ上司の顔が曇った。
「なんだ、結局利用する男の方がバカだと言いたいのか?」
「いえ、部長。部長のおっしゃる通り、私も利用する男の方が世の中を勝ち上がっていく、聡明な男性だと思います」
「でも虎を利用した狐は、結局笑いものになってるじゃないか」
「確かに、あの狐が本当に“利用する男”であったならば、利用される男の方が得をしている事になります。でも、そもそもあの虎が、狐を“利用する男”だったとしたら、どうでしょう?」
 優未の美しい容姿とその鋭い眼力に、私もハゲ上司も釘付けになった。
「つまり、あの虎は“利用される男”になりきった訳です。狐が何をたくらんでいるかなんてお見通し。だって虎は強さナンバー1の称号を既に持っているんですから。その称号を利用するだけさせて、結局は虎が一番強いという事を改めて周りに認識させた。“利用する男”だと思っていた狐は、賢い虎によって“利用される男”に変えられてしまったんです」
「なるほど…」
 ハゲ上司は散らかった頭を撫でながら呟いた。
「確固たる称号を持つ人間は、自分が利用されるという事を重々承知していて、そのうえで利用されるふりをして、また地位を高める。あのことわざには、そんな意味もあるんじゃないかって私は思うんです」
 優未は私を見て、ニコッとほほ笑んだ。
「だから、部長はこれからも虎のように賢く相手を“利用する男”として、ますますのし上がってくださいね。私はずっとお供させていただきます」
 優未の美しい笑顔に、ハゲ上司は再びガハガハと鼻息を荒くしながら笑った。

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