「え? 何か問題?」と不思議がるぶんぶく。
「こんな大太鼓で驚かしてどうするんですか! 一応、隠密なんです討ち入りは! こんな騒いでますけど、大きな音を出さないのは鉄則です!」
「そうだぜ~ぶんぶく。ちょいと合図の音を出すだけいいんだよ~。こんな風にな~」
そう言ったのはゴン狐。
でんでん太鼓の柄を鼻の穴に射し込んで、首を振ってでんでんでんと……。
もう、この酔っ払いに突っ込むのは止めよう。そう思う忠左衛門でした。
「……もう合図はいいです。撞木を皆で持って正門を打ち破ります。準備して下さい」
「撞木? そんなの有りましたっけ?」
「いや、そこに置いて……あれ? 本当だ。何処にも無い……」
「しょうがないな~。代わりの物で叩いて門を打ち破りますか~」
ぶんぶくの合図で仲間達が集まります。
皆が地蔵菩薩立像様を持ち上げて水平へと構えますと、門から後ずさりして間を取ります。
「はい! せ~の……」
「わーわー! ちょっと待ったぁ!!」と思わず止めます忠左衛門。
「え~何か問題~?」
「いやいやいや! 地蔵様で叩くって問題ありすぎでしょ!?」
というか何故に国宝地蔵様を選ぶ?! 他の地蔵様も何故に積極的に持ち上げてるんだ?! 何か恨みでもあるんか?!
「とにかく! 地蔵様で叩くのは止めて下さい!」
「え~しょうがないな……」
忠左衛門に制止されて、ぶんぶく達はごにょごにょと相談し始めます。
そして何か話がまとまると、皆がまた構え直しました。
「はい! せーの!!」
合図と共にぶんぶく達は地蔵菩薩様を上空へと放り投げました。
見事な放物線を描き、地蔵菩薩立像様は高い塀の遙か上空を越えて門向こう側へと。
そして手足をばたつかせながら地蔵様は落ちて行きました。
「だ、大丈夫なんですか……地蔵様、わっーて感じて落ちて行きましたが……」
「大丈夫でしょ? 地蔵だから丈夫なはずでしょう」
脳天気なぶんぶくに、心配しきりの忠左衛門。地蔵様が向こう側に落ちてから、暫くの間はシーンと静まり返ってました。
ふと突然、門の扉が静かに開き始めます。
開いた門から顔を出したのは、大きなたんこぶを拵えた地蔵菩薩立像様でした。
怒ってる! 顔は変わらないけど完璧に怒ってる!!