小説

『灯台守の犬』はやくもよいち(『定六とシロの物語(秋田の昔話:老犬神社)』)

目も開けられないほどの激しい雨に、大人でも吹き飛ばされそうになる強い風、足を踏ん張るのがやっとです。
マルコは道路わきの植え込みや、塀のかげに目を向けつつ道を急ぎました。

たのむから無事でいてくれと、祈りを天にささげます。

 
鍵は開いていました。
アンジェは導かれるように灯台の中へ入ると、濡れたマントを脱ぎ捨て、ロープを肩にかけ直します。
彼女は目の前の螺旋階段を上り始めました。

再び抱きあげたペスはとても軽く、重さを感じません。
まるで空へと昇る風船を抱きかかえているかのようです。
アンジェはペスに引き上げられるかのように、軽やかな足取りで階段を上りました。

長靴の底が立てる音が石壁の内側で何度も跳ね返り、ドラムみたいに響きました。
腰で揺れるランタンの明かりが作り出す影は、彼女と一緒に行進しているようです。
ペスがひと声吠えました。
驚いて立ち止まったアンジェは、階段が雨で濡れていることに気が付きました。

「すべりやすいって教えてくれたのね」

嵐も暗い階段も怖くありません。
アンジェの腕の中には、心強い相棒がいます。
石壁に刻まれた言葉が自分を励ましてくれているように思いました。

「大工になったマルコって、パパのことかしら」

ペスが二度、短く吠えました。
アンジェは頭をなでると、足を速めます。

 
春の嵐に襲われたケイン村の上空、湧き上がる黒雲の中、乱気流に弄ばれる1隻の飛行船がありました。
シリウス号の船長は、あご髭をひとなですると機関士に最大推力を指示しました。

「了解、最大推力」と復唱が返ります。

青ざめた顔の一等航空士は船長の横顔を盗み見ました。

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