小説

『灯台守の犬』はやくもよいち(『定六とシロの物語(秋田の昔話:老犬神社)』)

「やっぱりここだったのね」

アンジェは横にしゃがみこむと、「心配かけて駄目な子ね」とマリーの口真似をして頭をなでました。
ペスはうっとり目を細めながらも、しまったと後悔しました。
彼女が強風の中、自分を追ってくるとは考えもしなかったのです。

突然、声がかき消されるほどの音が、周囲にあふれました。
雨足が強まったのです。
振り返るとケイン村の上に渦を巻く雲の内側で、青白い稲妻が竜のように走りました。
雲の下には雨のカーテンがすき間なく広がり、地面から水しぶきが霧のように湧き上がっています。

「ペスどうしよう。おうちへ帰れないよ」

教会の塔に稲妻が落ちるのが見えました。
3秒ほどして、太鼓をいっせいに打ち鳴らしたかのような雷鳴が耳を打ちました。
思わずひざが震えます。
ペスはひと声、吠えました。

「そうね、中へ入りましょう」

アンジェはペスを抱き上げました。
激しい雨と雷に追い立てられるように、灯台の扉へと歩み寄ります。

 
大工の棟梁・マルコはマリーとポールを連れ、教会で屋根の補修をしていました。
仕事を終えて家に帰ろうとした矢先、鐘楼に雷が落ちたのです。
神父様に妻と息子を預けて家に戻りましたが、留守番をしているはずのアンジェとペスはいませんでした。
壁のランタン、油布のマント、そして娘が大事にしている赤い長靴が見当たりません。
アンジェたちは灯台へ向かったのではないか。
マルコは軽食と毛布を入れた皮袋を背負い直し、その上からレインコートを羽織ると、急いで教会へ戻りました。

神父様に状況を説明し、灯台のある丘へ向かいます。
マリーはポールとともに、教会で家族の帰りを待つことになりました。

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