小説

『灯台守の犬』はやくもよいち(『定六とシロの物語(秋田の昔話:老犬神社)』)

彼女の声が聞こえたのか、ペスの鼻面は雲の切れ間に青白く照らし出された飛行船へ向いています。

「アンジェリカ! おお、アンジェ、ペス。無事でよかった」

叫び声とともに、父親のマルコが階段から躍り出てきました。
灯台の入り口で脱ぎ捨てられたマントを見つけ、全速力で駆け上がってきたのです。
マルコは床にすわり込んでいる娘を腕の中の犬ごと抱きしめます。
娘に会ったら家を出たことを叱るつもりでいたのですが、アンジェがあまりにも小さく、ペスがあまりにも弱っているので何も言えませんでした。

「怪我はないか? もう大丈夫だぞ。寒くないか? おなかは空いてないか」

アンジェが答えようとすると、ペスが鼻先を上に向けました。
どこにそんな力が残っていたのでしょう。
風鳴りを打ち消す、朗々とした遠吠えが響きました。

「ペスの言うとおりだ。灯をともせば暖かくなるぞ」

マルコは投光器のレンズを上げ、ランタンの火を移します。
橙色の光が室内にあふれ、温もりがレンズから放射されました。
アンジェが声をあげます。
こんな綺麗な光景は見たことがありません。

「みんなでここにいるって、ママや村の連中に知らせることもできる。ペスは賢いな」

暴風の中を村へ戻るのは危険です。
古い灯台には電話が引かれていません。
村へ連絡をつける方法が思い浮かばなかったのですが、灯台の明かりなら村のどこからでも見えます。

マルコは折りたたみ式のテーブルを伸ばすと、油紙を巻いた包みを上に置きました。
ペスを受け取り、アンジェを椅子にすわらせます。
アンジェが包み紙を開くと、中にはマリーが作ったお弁当の残りが入っていました。
光あふれる食卓に置かれた母のサンドイッチは、最高のごちそうです。
小さな手を胸の前で組んでお祈りをすると、トマトときゅうりのサンドイッチをつかんで口に入れました。

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