小説

『灯台守の犬』はやくもよいち(『定六とシロの物語(秋田の昔話:老犬神社)』)

先生と一緒に階段を上り、食事をして戻るくらいの時間を過ごして帰ると、マリーは温かいスープを用意して彼を迎えてくれるのでした。

灯台の灯が消え、ケイン村の人々はかつてないほど暗く寒い冬を過ごしました。
それでも雪の下から草の芽が顔を出す季節はやって来ます。
葬儀の時すでにお腹が大きくなり始めていたマリーは、4月に入ってすぐ女の赤ちゃんを産みました。
大工のマルコは顔中の筋肉を緩ませて、近所の一軒一軒に娘の誕生を報せました。
玄関先ではペスが同じ所をくるくると回り、アンジェリカと名付けられた赤ちゃんの誕生を祝います。

ペスは忙しくなりました。
赤ちゃんの側をひとときも離れず、だれかが抱き上げると、誤って取り落とさないように注意を与えます。
足元の悪い個所では、アンジェを抱いた者が足を滑らさないように短く吠えました。
マルコとマリーが仕事で忙しい時は、ゆりかごの番をします。
ミルクの匂いのする口元をねらって現れた、猫と見間違えるほど大きな黒ネズミに稲妻のように飛びかかり、鋭い牙と強いあごで退治したこともありました。

赤ちゃんがよちよち歩きを始めた頃、村には不思議な話が広まっていました。
嵐の夜、閉鎖されたケイン灯台に明かりが灯るというのです。

子供たちは口々に、
「灯台守の幽霊が灯りをつけているんだ」とか、
「人魂だよ。パラディじいさんの魂がいるのさ」とうわさして、
怪談をいくつも作り上げました。
大人たちの中には、「大工の仕業さね。天国の先生に捧げるキャンドルがわりだろう」などと見当をつける者もおりました。

ペスには灯台の閉鎖も、怪談ばなしも関係ありません。
毎日、夕方になると灯台守の助手として仕事場へ通うのでした。

 
月日は流れます。
マルコは三人の弟子を抱える棟梁になりました。

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