小説

『灯台守の犬』はやくもよいち(『定六とシロの物語(秋田の昔話:老犬神社)』)

先生はランタンを手すりにかけ、椅子に腰かけました。
肩に斜めがけした鞄からお弁当を取り出し、テーブルに置きます。
ナプキンの包みを開くとサンドイッチが姿を現しました。
ペス用の干し肉も添えられています。
先生の奥様が3年前に亡くなってからは、マルコの妻・マリーがお弁当を作って、毎日届けてくれています。
たまにおやつの骨をくれるので、ペスはマリーのことが先生の次に大好きでした。

外は暗くなっています。
パラディ先生とペスは吹き付ける雨が窓ガラスを叩く音を聞きながら、ゆっくり食事を楽しみました。
秋も深まり、日が落ちると気温がぐっと下がるようになってきましたが、油を燃やして四方に光を放つレンズの周りはほんのりとした温かみがあります。
ペスは光に満たされた灯籠部でご主人と食事を楽しむのが、他のどんなことよりも好きでした。

 
鉛色の雲から雪が舞い降り、村に冬が訪れた日、ケイン灯台は閉鎖されました。
パラディ先生は朝、急にベッドから起き上がれなくなり、そのまま息を引き取ったのです。
ペスに連れて来られた大工のマルコと妻のマリー、村の医者が先生を看取りました。

大勢の村人が参列した葬儀は、灯台の下で執り行われました。
ペスは黒い首輪をつけて棺の傍にすわり、主人の死を悼みます。
パラディ先生と共に村長の弔辞を聞き、交通省の役人が読み上げる感謝状を受けました。

葬儀の後、ペスはマルコの家に引き取られました。
パラディ先生の側を離れないのではないかと心配していた人々は、尻尾を振って大工の妻についていくうしろ姿を見て驚いたものの、「賢いやつだから、先生は二度と戻って来ないと知っているのだ」とうなずき合います。
ペスが主人の後を追わなかった事に、誰もがほっと胸をなで下ろしました。

新しい家で、ペスはのんびりと暮らしました。
毎日夕方になると閉鎖された灯台に行き、足元からてっぺんを見上げます。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13