小説

『灯台守の犬』はやくもよいち(『定六とシロの物語(秋田の昔話:老犬神社)』)

大工になった青年は先生に会うつもりで灯台へ行きましたが、さんざん迷惑をかけた先生と顔を合わせるのが恥ずかしくなりました。
そこで石壁にメッセージを刻みつけたのです。

「公共の施設に傷をつけてはいかん」

数日後、パラディ先生はペスをお供にマルコの仕事場へ行き、昔のように教え子を叱りました。
見えない目を真正面に向け、背筋を伸ばして立ちます。

慌てたマルコが謝罪すると、先生は彼の肩に手を置いて首を左右に振りました。

「そんなことも教え損ねたダメ教師の面を見てやりたいと思ったが、あいにく目がにごってしまってね。鏡に映る自分の顔すらも見えないよ」

ペスの目に映る先生の顔は眉こそ寄せられていたものの、口の端がわずかに上がっておりました。
言葉とは裏腹に、なんだか誇らしげにさえ見えます。

「立派な大工になったそうじゃないか」

ペスは主人の足元にすわり、肩を抱き合う二人を長いこと見上げておりました。

パラディ先生は壁に刻まれたメッセージを消さずにおきました。
ペスは主人がどれほど気落ちしていても、そこに触れると表情が明るくなることを知っていたのです。

 
先生とペスは灯台の頂上にある灯籠部にまで登ってきました。
手探りとは思えない、しっかりとした手つきで投光器のレンズを上へずらし、手に持ったランタンの火を移します。
灯台内部が橙色の光で満たされると、ペスは天井を見上げて遠吠えをしました。

「夕食にしよう」

主人の手が頭に置かれると、ペスは螺旋階段の手すりに固定された折りたたみ式の食卓へ向かいます。
ランチョンマットよりもひと回り大きい木製のテーブルと椅子は、マルコからの贈り物でした。
気立ての良い娘と結婚して自分の家を持った彼は、パラディ先生が冷たい石の床にすわって食事をしていると知り、忙しい仕事の合間に大急ぎで取り付けたのです。

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