小説

『チヨコ 初号機』洗い熊Q(『魔法使いの弟子』)

 取り残された気分は誰も居ない寂しさ相まって俺を落ち込ませた。何か悪い所があったんだろうかと悩ます程に。
「あ~皆あっという間に出て行ったんだね~早いね~」
 と、落ち込んでいた俺に一人のチヨコが話し掛けてきていた。
「……お前は出て行かないのか?」と俺は聞いた。
「私? 私はシンちゃん一筋だもん。出ていく訳ないじゃない」
「え、お前はチヨコ……?」
「一号だよ、一号。ずっと私はシンちゃんの側に居たじゃん。いい加減に覚えてよね~」
 だから見分けられる訳ないだろ。
 ――そう言えばと思い出してみれば。
 あれだけ居たとは言え、必ず一人はいつでも側に居て俺の仕事を手伝ってくれていた。
 ずっと側に居てくれたんだ、本当のチヨコは。
「……そうか。そうだよな」
 一人だけになったチヨコを見て急に今まで以上に愛おしく、可愛く見えてしまった。
「シンちゃん、どした? 見つめてくれちゃって。それよりもさ、お腹空かない? 何か作ろっか?」
「いや何処かに食べに行こう。久し振りに。二人だけで」
「そっか、そだね。久し振りにね」

 
 ふらりと二人、夜風を楽しむ様に歩いた。冷やされた頭に、ふと思いついた事を呟く。
「俺達も結婚するか」
「えっ? シンちゃん何つった? ねっ、ねっ?」
「……また今度な。ちゃんと正式に言う」
「え~それっていつ~?」
「それよりあのマンションを出るとか片付けが先だ。もうあそこは必要ないだろ。次に住みたい場所とかあるか?」
「う~ん吉祥寺? 調布とか?」
 そこは祖師ヶ谷大蔵じゃないんかい!
 するとチヨコは気付いた様にスマートフォンを手元に取り出した。メールでも来たか。
「……あ、二十号からだ。ねぇ凄いよ、もう婚約したんだって。二十号の彼ってお医者さんなんだよ、かなり大きい病院の」
「へぇ、それは凄いな」

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