小説

『専業労働者』高橋己詩(『アリとキリギリス』)

ゾウ次郎 佐藤に一歩近寄り顔を近づける。

ゾウ次郎「ねえ、佐藤に触ってみてもいいかな」
タヌキ太「触ってはいけないことになっているんだ」
ゾウ次郎「そんなこと言わずに、ちょっとだけ触らせてくれよ」
タヌキ太「いや、それはいけないことなんだよ」

ゾウ次郎 激しい剣幕を見せる。

ゾウ次郎「どうしてだよ。ちょっとくらい触らせてくれてもいいじゃないか」
タヌキ太「でもそれは規則があって」
ゾウ次郎「だって誰も見ていないじゃないか。別にいいだろうに!」

タヌキ太 頭を下げる。

タヌキ太「駄目なんだ。佐藤人身立場保護法によって、緊急時以外、佐藤に触れることは禁止されているんだ。これに違反すると、触った者だけじゃなく、それを目視した者も罰されてしまう。申し訳ないけれど、触れないでくれないかな」

ゾウ次郎 神妙な表情になり、頷く。

ゾウ次郎「そうなんだ。法律で定められているのか。それじゃあ仕方ないね」

タヌキ太とゾウ次郎 目を合わせて笑う。

ナレーション「わかりましたでしょうか。佐藤人身及び立場を保護する法律によって、緊急の場合を除き、佐藤に触れることは禁止されております。佐藤が絶叫したり、寝苦しそうにしている、もしくは佐藤の人身を移動せざるを得ない状況でない限り、絶対に触れてはいけません。悪質な方の訪問があり、佐藤への接触の黙認を強要させられた際にも毅然と対応し、法令遵守を第一に行動しましょう」

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