娘が身をかがめて、心配そうにわたしの顔を覗き込む。
「ああ、すまない。おめでたい日に涙は禁物だな」
わたしは照れ臭くなって、あわててポケットからハンカチを取り出して涙を拭った。
「ううん」
娘が小さく首を横に振る。
「いいの、嬉し泣きだもの。だって、ほら見て。お母さんも泣いてる」
娘が目を赤くしながら窓の外を指さした。降りしきる雪に雨が混ざり、いつしか霙(みぞれ)に変わっていた。
「あめゆき、か……」
「あめゆき?」
「霙のことだよ」
白く凍った景色をミユキの涙が溶かしてゆく。その様子を目の当たりにして、わたしも娘も泣いていた。
「ほら、あんまり泣くとせっかくの化粧が落ちるぞ」
私は手に持っていたハンカチで、そっと娘の目元を拭ってやった。
「小雪、どう? 準備できた?」
そこへタキシード姿の新郎が、若馬のごとき勢いで控室に姿を現した。
「亮悟」
「あれ、小雪もお義父さんも……」
すっかり泣き腫らした娘とわたしの顔を見て、新郎の亮悟くんが目を丸くした。
「ああ亮悟くん、娘を泣かせてしまってすまない。これからは、きみが小雪を幸せにしてやってくれ。頼んだよ」
「そうだよ、お父さんの言う通り。絶対に幸せにしてよね!」
鼻をすすりながら、娘も応戦する。このときほど、娘を愛おしいと思ったことはない。
「は、はいっ! お義父さん、まかせて下さい。小雪さんを必ず幸せにします!」
新郎の初々しい決意の言葉に、場の空気が一気に和んだ。こわばっていた娘の表情も、みるみるうちに柔らかくほどけてゆく。
「片瀬様。そろそろお時間ですので、チャペルへおいで下さい」
そのとき式場スタッフに声を掛けられた。もうすぐ挙式の時間だ。
「俺も行かなくちゃ。それじゃ後で式場でね」
「うん」
慌ただしく控室から出て行こうとした亮悟くんが、突然、踵を返して娘を見た。
「小雪。その、すごく……綺麗だよ」