小説

『カタリベマッチ』もりまりこ(『マッチ売りの少女』)【「20」にまつわる物語】

 その人はさっきまで踊りくるっていた女の人だった。
「あたし、ローズっていうの。あなたやっぱりマッチセラーさんだ」
「え?」
「マッチなんですか?」
「またまた、あっそうか記憶なくしてるって聞いてたけど、マッチセラーさん
だっていうことも忘れてたんだ。ごめんなさい」
 どうしてわたしが記憶を飛ばしてしまっていることを知っているんだと後ずさったら、まわりに人だかりがしてきて、みんなが口々に「マッチ、マッチィ、リトルマッチセラーさんじゃねぇ?」ってシュプレヒコールみたいな声が聞こえた。わたしはただおそろしくてくずおれる。
 何も気づいていない男の子が、そうそう座ろうぜって声をみんなにかけて、いつのまにかみんなが車座になっていた。
「あれ、持ってますよね。商売道具だった、マッチ。マッチセラーさんはね、それでみんなの未来をここら辺で占ってたんですよ。だからお返しにそれで俺たちが語ってあげますよ。あなたの記憶を。俺たちカタリベですから。リトルマッチさんの」
 意味がわからない。同意できないときに使うそれじゃなくて、ほんとうに今の状況がつかめなかった。そしてめまいがしそうだった。
「カタリベ? ですか?」
 今度は人だかりの誰もがわたしの問いかけに応えてくれなかった。そわそわと語り始め? の準備をしているらしい。
 そしてあるわけもないのをわたしは探していた。鞄の中を探っていたら、ちいさな直方体の箱が指に触った。
 マッチなんで持ってるの?
「ほら、あるじゃないですか。じゃ、それを渡してくださいね」
 1本いくらがいいのかな? とっても安くで占ってたでしょ。今日は大晦日だから1本センでいいんじゃないの? オッゲー、奮発しますよ。正月が迎えられるぐらいには。とかっていう得体の知れない数字と声が重なりあった。ひとりの女の子がマッチをビルの壁でこする。するとあたりがぽわっと明るくなる。
「うわぁ、こういうの見たかった。壁にこするとしゅぼってやつ」
 じゃ、始めますかと男の子の声。
「マッチセラーさん、あなたはあの大晦日、いちばんはじめにとってもいいことをしたんですよ」
 そういうと、次の男の人にマッチが手渡され。

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