「桃太郎……オメエはどうしたい」
「あう?」
「そうだよなぁ……オメエはまだそういうことわからねぇよなぁ」
「あう」
大鬼は桃太郎の顔を覗き込むと、優しく微笑んだのです。
次の日。
大鬼は桃太郎を連れて、遠く遠く離れた人間の村にやってきました。
そして、一軒の家の前に、桃太郎が入っているゆりかごをそっと置いたのです。
大鬼は誰にも見つからないように家から離れると、桃太郎を見守ります。
一人になった桃太郎が寂しさで泣き出すと、家の中からおばあさんが出てきました。
「いったい誰が泣いているんだい? なんとまぁこんなところにあかんぼがいるじゃないか。おーよしよし、ん? 桃も入ってるじゃないか」
おばあさんは桃太郎を見つけると、ゆりかごごと桃太郎を家の中に連れていきます。
やがて、芝刈りから帰ってきたおじいさんもやってきました。
「…………」
大鬼は、それから何日も桃太郎を見守ります。
やがて、おばあさんとおじいさんがいい人間で、ちゃんと桃太郎を育ててくれると分かった時、大鬼は鬼が島に帰ったのです。
「元気でな……桃太郎」
大鬼の目から、初めて悲しい涙が流れました。
大鬼が桃太郎と別れてから、早くも十数年の時が経ちました。
桃太郎を手放した大鬼は、今でも元気がありません。
大鬼は、桃太郎を忘れることが出来ないでいたのです。
そんな時でした。
大鬼の下に、若い男の鬼が血相をかえてやってきました。
「大鬼さん、桃太郎が帰ってきたべ!」
「なんだって!?」
そんな馬鹿な! と大鬼は驚きます。
もしや自分のことを覚えていてくれて、帰ってきてくれたのか。
そう思った大鬼でしたが、どうも様子が違います。
「でも、様子がおかしいんだべ」
「なにがだべ」