小説

『鬼の目にも涙』本多真(『桃太郎』)

 鬼達は文句を言い、桃太郎を捨ててこいと怒りました。
 でも大鬼は頑なに、鬼達の文句を聞き入れません。
 大鬼は鬼が島で一番強い鬼なので、他の鬼達も我慢するしかありませんでした。
 ある日、女の鬼が大鬼をたずねてきました。
「大鬼さん。あんた、あかんぼうのあやし方知らないんじゃないのかい?」
「あやし方?」
「そうさね……て、臭い! この子臭いじゃない! ちゃんとおしめを交換しているのかい? ご飯は?」
「おしめってなんだべ?」
「もう、大鬼ったらだらしないべよ。あんたこの子の父ちゃんなんだべ? しっかりしな!あたしが全部教えちゃる!」
 女の鬼はいろいろ教えてくれました。
 あやし方や、あかちゃんが食べるご飯など。
 桃太郎を抱っこしながら子守唄を歌う女の鬼は、大鬼にこう言いました。
「この子、桃太郎っていうのかい?」
「そうだべ」
「…………人間のあかんぼも、可愛いもんだね」
「……そうだべ」

 ある日、若い男の鬼が大鬼の下に訪れるとこう言いました。
「大鬼さん。これ、美味しい果物だべ、あかんぼでも食べれるやつだ。桃太郎に食わしてやってけろ」
「ありがとう……でもいきなりどうしたんだべ?」
 大鬼が若い鬼に尋ねると、若い鬼はぽりぽりと角をかきながら恥ずかしそうに頼みごとを言ったのです。
「その、オラにも一回……桃太郎を抱っこさせてくれねえべか……」
「……全然いいべよ! ほら!」
 大鬼は桃太郎を若い鬼に渡します。
 若い鬼は、恐る恐る桃太郎を抱っこしました。
「あう~」
「うわーーうわーー!」
 言葉にならないくらい喜んでいる若い鬼を見て、大鬼はこう尋ねます。
「可愛いべ?」
「んだんだ、もの凄く可愛いべ!」

 次の日も、そのまた次の日も、鬼達は代わる代わるやってきました。
 どうやら皆、桃太郎の可愛さに負けてしまったようです。
 今では、桃太郎は鬼達の人気者です。

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