彼女たちを見ながら、グリーンにずっと思っていた疑問を打ち明けた。彼は横で息をのんだあと、憐れむような目をして僕の疑問に答えた。
「それはな、恋じゃ」
「コイ?」
「人には多様な感情があるんだ。好きという感情にもな。その中の誰にもかえがたい大切な人間に感じる気持ちのことだ」
「恋…」
「忘れろとは言わんが、あきらめろ。その想いも時間が経つにつれて薄れる。人の感情などうつろうものじゃ」
「そんなものなのか。…本当に?」
白雪が眠りについても、今も目の前に彼女がいることで感じているこの激しい感情がいつかなくなるときがあるのだろうか。
その後、白雪は王子とともに、森を去ることになった。
花嫁として、森の向こうの妃になるという。
「ありがとう。さようなら」
この言葉を僕の心に残して、幸せそうな笑顔で白雪は王子に連れられていった。
一言も彼女と言葉を交わさず、見送りも一人だけ仏頂面していた。
言葉を交わせば、引き留めてしまいそうになると分かっていた。
彼女たちの後ろ姿を見ながら、これで彼女とは2度と会うことはないと思った。
安心と悲しみが入り混じったような気分になった。
でも、今だけは心から彼女の幸せを願おうと思った。
「おーい。日も暮れてきたし、今日は引き上げるぞ」
「はーい」
今日の仕事も終わり、仲間と帰路につく。
「今日の晩飯は何だろうな」
「今日の家事担当はイエローとレッドだから、川魚じゃないか」
他愛のない会話を同じ仕事をしていたブラックとしつつ、空を見上げる。太陽はオレンジ色に輝き沈みかけていた。
白雪が王子とこの森を出て、どのくらい経ったのだろうか。
小人の体格は成長しないため、変わりばえもしない毎日を送っていた。
1つ変わったことといえば、グリーンに文字を習い始めたことだ。今の生活には必要ないが、僕は知らないことが多すぎる。もっといろんなことを知ってみたいと思ったのだ。
いつか白雪がいる国にも行けたらとひそかに思っている。