小説

『こびとの片想い』夢叶(『白雪姫』)

 そう言いながら、彼女は寂しそうにどこか遠いところを見た。
 楽しそうに笑う裏で何かを抱えているように感じ、そんな彼女が気になって自然と目で追うようになった。
 こうしているうちに、笑顔で仕事に行く僕らを笑顔で見送り迎えてくれる日常が当たり前になっていった。いつもと同じ食料採取と道具の材料収集なのに、彼女の笑顔が見たくて、早く仕事を終わらせて帰りたいと思うようになった。
「なんで、こう思うのだろう」
 考えることが得意ではないから、今が楽しいならそれでいいとあまり考えないようにしていた。

 
 何か月か経った頃、僕たちが仕事を終えて帰ってきたら、彼女は玄関先で倒れていた。
「白雪!」
 息のない彼女は体を揺らしても、頬を軽くたたいても目を開けることがなかった。
 足元には一口かじられたリンゴが転がっていた。
 何が起こったのか分からなかった。温かみをなくした彼女の体を抱えて、どうすることもできず、仲間とともに涙が枯れるまで泣いた。
 彼女が目覚めなくなって数日経ち、小人仲間のグリーンがかすれた声で提案した。
「美しい彼女をいつでも会えるように、ガラスの棺に寝かせよう」
「それだったら、彼女がいつも動物たちと話していたあの場所にその棺を置こう」
 彼女がいつも動物と話していた場所に、僕たちはガラスの棺を作ることにした。
 僕は一心不乱にガラスを削り、棺を作りあげた。
 完成したガラスの棺に彼女の好きな花を敷き詰め、彼女を慎重に寝かせた。彼女の顔を見つめながら、割れ物のようにそっと頭まで寝かせた。彼女が目を開けることを期待しながら。
 でも、彼女は目を開けることはなく、彼女のいない日常が始まった。
 彼女に出会う前のようには戻ることはなかった。彼女のことを忘れたくて、ひたすら材料探しにのめり込もうと必死で自分の仕事をした。
「おい、大丈夫か?」
 無口な小人仲間のオレンジまでもが、よく心配して声をかけてくれるようになった。それほど僕の顔はひどいものになっているのだろう。僕はまだ、彼女がいなくなった事実を受け入れられなくて、仕事から帰っても無意識に彼女を探していた。
『おかえりなさい、ブルー』
 彼女の声が聞こえた気がして、振り返っても彼女はどこにもいない。

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