小説

『こびとの片想い』夢叶(『白雪姫』)

 まじかに彼女の顔を見て、これ以上になく顔が赤くなる。彼女の艶やかでふっくらした唇に目がいき、慌てて目をそらす。
 彼女が思っていた人が王子でなく自分だというだけで、うれしくて泣きそうになっているのに。
 こうして生きている彼女にまた出会えただけで幸せなのに。
 僕は今からこれ以上を望もうとしている。
 こんなにこれ以上の幸せがあっていいのだろうか。
「僕は…」
 彼女の瞳を見つめ、胸にしまっていた言葉を言った。
「僕は、あなたのことが今でも好きだよ」
 そう言った瞬間、彼女は僕に抱きついた。
 -僕が重さに耐えきれず、そのまま一緒に草に転がった。
「イテテテ…。大丈夫、しら」
 何か柔らかいものが僕の唇をふさいだ。
「…やっと会えた」
 至近距離に彼女の笑顔がある。今度は僕が彼女に抱きつき、キスをする。
 彼女の体は暖かい。僕を求めてくれている。
 それがこんなにも幸せなことなんて思わなかった。
 どのくらい時間がキスをし続けただろう。僕は彼女に言った。
「白雪、一緒に逃げよう」
 戸惑うように、彼女は僕を見つめた。
「…でも、あなたも危ない目に合うよ」
「それでも、あなたと一緒にいたいから」
 真剣さが伝わったのか、彼女は嬉しそうに笑いながら、瞳には涙がたまっていた。

 
 さっそく僕たちは家に帰って、急いで荷物をまとめた。
「本当に、出ていくのか」
 振り返ると、グリーンが部屋の扉からこちらを見ていた。
「うん。決めたから」
「分かっているのか、この森を出たら、私たちはどうなるか分からないんだぞ」
 僕たちはこの森から出たことがない。時間が経っても姿が変わらない小人はいつからどうやって生まれたかも分からない。いつの間にか森にて生活していたから、何年生きていたのかも分からない。
「…だけど、彼女と一緒にいたいんだ。彼女がこの森を出ていってから、ずっと考えていたことだから」
 グリーンの目線をすごく感じたが、目を合わせることができなかった。
「…分かった。もう何も言わない。おまえが決めたことじゃからな」
「ありがとう、グリーン。…さよなら」
「あぁ!またどこかでな」

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