それから二十年以上が経ってしまったが、あの時の事を時々思い出す。思い出す度に私はやはり自分が悪いとは思えない。好きじゃない相手に冷たい態度を取ったことが悪いのか、靴を隠したりユニホームを汚したりそんなのはちょっとした悪戯に過ぎない。ラッキーカラーだと云う赤いスパイク、ラッキーカラーなら失くす筈がないとキリコに教えてやっただけ。それを虐めたみたいに云う方が大袈裟なのだ。
私は自分の子供たちにも常々言い聞かせている。キライな奴と無理に友達にならなくて良いんだと。マホたちも大人になって自分たちを責めることはないと分っただろう。きっと再会は楽しいものになるに違いない。
バスはまだ静岡にも入っていない。夜が明けない車中に鼾と寝息が混ざり合い鬱陶しいと思いつつようやく眠気がやってきた。目が覚めた時には朝になっていることを期待して少しは眠っておきたい。横浜で集合してから皆でキリコの墓参りに行き、その後は食事をする予定になっている。私はバスの心地良い揺れに実を任せ、懐かしい友人たちと楽しい時間を過ごす夢を見ていた。
突然バスが大きくバウンドして到着したのかと、寝ぼけ眼で窓の外を見るとまだ暗く眠気が引かない内に再び目を閉じた。
「なかなか眠れないわね」
突然横から話しかけられ眠り掛けていた私はフッと、改めて隣の女性の存在を思い出した。
「そうですね」
小さい欠伸を噛み殺し頷いた。
「占いは好き? これを一枚引いて。どれでも好きなカードを」
女性の手元を見ると扇状に広げたトランプだった。何故トランプなんかと思いながら、まだ頭が覚めやらない私は、断るのも気まずいような気がして仕方なく彼女の手からカードを一枚引いた。
「引いたカードを見て」
云われて引いたカードを見るとラッパを吹いている天使みたいな絵が描いてある。トランプではなかった。
「それはタロットカード、一億分の十二分割じゃ無く、ヒサコ一人だけの答えだよ。ヒサコが引いたのは二十番目のカード『審判』のカードだね」
「えっ?」
私はやっとずっと隣に座っていた女性の顔を見て、息を呑んだ。
「キ・リ・コ…」
すぐ隣に昔のままのキリコの顔があった。
次の瞬間、「ファーン!ファーン!ファーン!………」と突然耳をつんざくような幾つもラッパの音が鳴り渡り、横から激しい衝撃を受け目の前が赤く弾けた。
「審判が下るよ。凶はラッキー…」
最後に耳元で浮かれたキリコの声が聞こえた。