小説

『キリコの審判 凶はラッキー』山田密【「20」にまつわる物語】

 初めは殴られて泣いたりもしたが、親にも云わなかったのは当たり前なんだと思い込んでいたのと、何となく云ってはいけないことのように感じていた。
 キリコが試合に遅れて来た時も、何故か遅れずに準備をしている私たちが怒られた。
「どうして仲間を待ってやらないんだ。陸上は個人競技だからこそ、チームワークが大事なんだ! いつも云ってるのにどうしてお前たちは判らないんだ!」
 訳の判らない事を云ってトイレの裏で並ばされ一人ずつビンタをされた。その後遅れて来た当の本人は殴られもせず、早く仕度しろと云われただけたった。特にキリコと同じ短距離をやっていた私はキリコ絡みで理不尽に怒られる事が多かったと思う。
二年の初め頃までは互いに励まし合い県予選突破を目標に頑張っていた。互いにフォームを確認したりタイムを競ったり。でも、いつしか田島への反発心の方が強くなり、私のタイムは落ちる一方で、逆にキリコはタイムを伸ばし続けた。そんなキリコは田島のお気に入りだった。
世渡り上手なキリコ、皆が練習をサボろうと云っても一人グラウンドに出て行く、良い子ちゃん。
夏の合宿の時もそう。テニス部の部員数名が暴飲をして腹を壊し合宿が中止になったと訊いて、私たちもジュースやコーラ牛乳を大量に飲みまくったが、一時的な腹痛だけで済んでしまい「自己管理がなってない!」と怒鳴られただけで中止には至らなかった。その時もキリコ一人、参加しなかった。
良い子ぶりっ子だったキリコを私は大きらいだった。いやマホたちも嫌っていた。あの頃、四人集まればクズの田島とキリコの悪口で盛り上がった。
三年になる少し前から、帰りも別に帰り遊びにもキリコを誘わなくなった。皆が嫌っていたからで、今更何を話し合うと云うのか、協調性が無く、これ見よがしに部活に励み田島にアピールする。嫌われて当然の事をしていたのはキリコの方。いくら同じ部だからとキライなら付き合わないのは当然ではないのか。
死んだのは県大会の三日前だった。三年最後の予選で私たちは結果が残せずその時点で部活は引退だった。ただキリコは一人初めて県予選通過し関東大会に出場が決まった。その為、私たちまで応援に行かなければならなかったのだ。
誰も関東大会なんて行けると思っておらず、その日は原宿に遊びに行く計画を立て楽しみにしていた。最後だと思い気は進まなかったがキリコも誘っていた。
「ごめんね」
 たまたま放課後の教室で二人だけになった時、キリコが私に云った。
「どうせ関東だってキリコのタイムじゃ予選落ちじゃないの。行くだけ無駄じゃん。原宿行くの皆スゴイ楽しみにしてたのにさ」
「うん。そうだね。私も出られるなんて思なかったし、大会の日は二十日で私にはアンラッキーデーなんだよね」
「まただ、そうやって週刊誌の占いなんて信じちゃってさ馬鹿みたい。一億人の人間の運命を星座が同じだけで十二分割なわけ無いじゃん」
「まあそうかもしれないけど。ねえ、私って皆に嫌われてたんだよね? 占いのせい?」
「それもあるけど、一人で良い子ちゃんしてたからだよ」

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