「でも、部活だから練習するの当たり前だし、ヒサコだって初めの頃は一緒に頑張ってたじゃん」
「それが違うんだよ。田島がよく云うじゃん、チームワークだって、皆でサボろうって云っても一人だけ練習してるし、合宿の時も私たちががぶ飲みしてるの、白い目で見てたでしょ。元凶はキリコなんだよ」
「そんな目で見てないよ。ただ、私はすぐ下痢するからちょっと怖かっただけで」
「もういいよ。もう終わりなんだからさ。ああ、違うか。まだ終われないんだった」
「ごめん。私も皆と原宿行くの凄く楽しみにしてたんだよ。でも、試合に出ないわけにはいかないから…」
「でも、出たいんでしょ。田島も大喜びだったしさ。そうだ、怪我でもしちゃえば出なくていいだろうけどね。キリコ、あんたが元凶なんだよ」
冗談交じりに諭す積もりで云った。
「私が、凶なの…」
半笑いのキリコを残し、私は先に教室を出た。
それから十数分後だったろうか、キリコは二階の教室の窓から転落して死んだ。最期の言葉を書いたノートを机の上に残して。今日を凶と書いたのは私たちへの嫌味だったのか、それとも自分を指したのか、落ちたのは事故なのか、それとも目測を誤ったのか、今となっては誰にも分からない。
「キリコは死んだんだよ。私たちの名前を残して」
卒業証書を胸に抱き、カナミは泣きながら云った。
「キリコに謝りたいよ」
「私も」
「キリコ、ごめんね」
「あのメモに何か意味があるの?」
私は訊いた。
「少なくともキリコは私たちを好きでいてくれたんだよ。それなのに…」
ミノリも泣き出した。
「ねえ、認めるべきことは認めようよ」
マホは勉強も出来ていつでも少し大人だった。
「皆、キリコは事故だったんだよ。先生たちもそう云ってるじゃん。何を認めるの?」
「少なくとも、私たちはキリコに冷たい態度を取っていたのは事実でしょ。特にヒサコは」
「初めに、ヒサコが云い始めたんだよね。キリコの悪口とか」
「ちょっと待ってよ。私が悪いの?」
「ねえ、今は止めようよ。きっと今話し合ってもなすりあいになると思うから、時間を置こうよ。二階から落ちたんだから事故だと思うけど、でもキリコを仲間はずれにしてたのは事実だから、私たちがちゃんと向き合わなきゃいけないんじゃない? だから時間が経てばもう少し冷静になれると思うし」