小説

『わがままな人体』紫水晶【「20」にまつわる物語】

「それでは、ここまでの結果を発表します。独自に機能できるのは、口、目、耳、手、足、鼻、舌、それから、胃、大腸、小腸、そして先程の生殖器ですね」
「ちょっと待ってくださいよ。この心臓を忘れてもらっちゃ困ります。そもそも心臓が無かったら、おたくら、ただのガラクタですからね」
「ガラクタとは何事だ!」
「はいはい、口さん。ちょっと口を謹んでください。あなたが出ると話がまとまりませんので。それから心臓さん。あなたのおっしゃることはごもっともなのですが、もう少し言葉を選んでください。これじゃあ喧嘩になってしまいます」
「わかりました。以後気を付けます」
「よろしい」と脳が頷いた。
「おいおい、心臓が入るなら俺も入れてもらわねば」
「そうですね、肺さん。あなたがいなかったら呼吸ができませんものね」
「じゃあ私も必要ですよ。老廃物は身体の外に出さなきゃいけませんもの」
「ああ、そうですね、膀胱さん。あなたも必要です」
「出すなら入れるところも必要だろ?」
「そうですね、食道さん。あなたを通らなければ養分を摂取できませんものね。結構です」
 脳は身体を思い浮かべた。
 目、鼻、口、舌、耳、手、足、食道、肺、心臓、胃、大腸、小腸、膀胱、生殖器。
「とりあえず十五の器官ができました。これに私、脳が入って十六。こんなものでしょうかね」
「ちょっと待った!」
「はい、何でしょう肛門さん」
「老廃物は液体だけじゃないぞ。固形物はどうやって排泄すんだ?」
「なるほど。肛門さん。良い所に気が付かれました。それじゃあ肛門さんも入れるとして十七。これで何とかなりそうですね」
話を打ち切ろうとする脳に、「ちょっと待った!」複数の声が上がった。
「我々はどうなるんですか!」
「おやおや盲腸さん。あなたは無くても支障のない臓器ではありませんか。今回の議題をお忘れですか? 『最低限の器官のみで人体を構成する』って」
「そうだけど……」
「健人が日々ストレスを感じているのは、我々が干渉し合っているのが原因なんです。なので、外部との接触に必要な目、鼻、口、耳、手、足が独自に動けるようにしたわけですよ。それに伴い、身体を維持していくのに必要な臓器を残そうという話じゃありませんか」
「じゃあ我々は要らないと?」
「脾臓さん。残念ながらそういうことです。あなたは、こう言っては何ですが、ちょっとマイナーですし……」
「そりゃないよ、脳さん。我々だって必死なんです」

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10