「ジェットコースター乗ってガッツポーズしてた」
「はいっ?」
健人には全く身に覚えのないことだらけだが、梓が嘘をついているとも思えない。なぜなら、現にこうして健人は苦手な遊園地にいるのだから。
「悪い。今日は帰る」
「え? ちょっと健人!」
引き留める梓の手を振りほどくと、健人は入場ゲートに向かって歩き始めた。
「何なの、一体?」
後ろから梓の少し怒った声が飛んできたが、健人は構わず歩き続けた。自分の知らない自分がいる。そう思うと、言い知れぬ薄気味悪さが健人の全身を覆った。
とにかく早く帰って寝てしまおう。この得体のしれない現象を疲れのせいにして、健人は帰路を急いだ。
翌朝、健人は朝食を食べていた。
起きた覚えはない。なのに気付いたらトーストを一枚平らげていた。
「なんだこれ?」
奇妙な現象は続いている。いよいよ気味が悪くなり、健人は再びベッドに潜り込んだ。頭から布団をすっぽり被ると、もう二度と勝手に身体が動き出したりしないように、掛け布団で全身を包み込み、布団の縁を両手でしっかり握りしめた。
「俺は一体どうなったんだ? 病気なのか?」
独り呟いてみる。しかし、答えは見つからない。途方に暮れながら、健人の意識は深い闇の中に引きずり込まれていった。
「もう、いい加減にして!」
「え? 梓?」
ベッドから抜け出し手早く身支度を整えた梓は、涙で濡れた瞳を健人に向けた。
「こんなのって酷い」
「え? ちょっと待って。俺……」
慌てて飛び起きた健人の姿は、一糸纏わぬ状態だった。
「どうせ身体目当てだったんでしょ? 私が気付かないとでも思った?」
「いや、俺は……」
「私、馬鹿だし、健人の話半分も理解できなかったけど、これだけはわかるよ」
「梓……」
「健人は、私の事なんて愛してない」
「梓!」
追いかけようとベッドから飛び降りるも、掛け布団が足に絡みつき、健人はその場に倒れこんだ。
「梓―!」
健人の痛切な叫び声が、「さよなら!」と吐き捨てられた梓の声と閉まるドアの音にかき消された。
***