小説

『わがままな人体』紫水晶【「20」にまつわる物語】

「反射だよ」
 胸ポケットからハンカチを取り出した真壁は、眉をしかめながらペンに付いた食べ物を丁寧に拭き取った。
「彼の反射神経はかなり人並外れている。多分、脳の役割を他の神経系が補っているんだと思うのだが……」
「そんなこと……」
「うむ。まだ仮説の段階だから何とも言えんが……。しかし、この研究が完成すれば、いずれは兵器としての使用も可能だろうな」
 手元のファイルを閉じると、真壁は未だ貪り続けている青年を見やった。
「篠崎健人。実に興味深い検体だ」
 真壁教授の口元から、笑いを含んだ吐息が小さく漏れた。

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