小説

『UBASUTE』あきのななぐさ(『うばすてやま』)

嫁は息をのんでいた。

これでいい。
これで、この二人の話題は、わしに何があったのかになるだろう。
息子が何をしたのかというよりも、そのことが先に来るだろう。

息子にも、嫁にも、この先負担が小さくなりますように……。
心の中で観音様に手を合わせながら、わしの罪深さに許しを乞うていた。



布団の中に、入って寝息を立てる。
しばらくたった後、襖の向こう側から、小さく話し声が聞こえてきた。

「帰りにも枝を折ってたんだよ。帰り道に迷わないようにって……」
「恐怖で気がふれたというのか?」
「でも、俺のことはわかってたよ……」
「俺もこんなこと予想もしなかったよ……」
嫁の声は小さくて聞こえないが、息子の声だけは聞こえる。

おおむね順調に運んでいるようだ。

最後の仕上げ……。
これをすれば……。

迷惑をかけるが、こればかりは仕方がないと、あきらめてもらおう。
心の中で、嫁に手を合わせる。
すまんな、最後の最後まで迷惑をかける……。

「……」
「…………」

ダメだ。
やっぱり、わしにはできん。
何故、こんなことまでせんといかんのか?
何故、こんな恥ずかしいことをせんといかんのか?

もうええじゃろ。
息子たちはわしのことを気がふれたと思ってくれとる。
こんなことをせんでも、わかるはずだ。

厠に向かおうと体を起こしかけた時、息子の声がまた聞こえた。

「でも、だからこそ、できないよ……」
悲しそうな声。
また、わしは道を間違うところじゃった。

息子は、優しすぎた。
そうあってほしいと思って育ててきた。

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