それが見違えるように大きくなったものだ。
「何言ってるんだ?食べただろう。最後の飯だとうまそうに食ってたじゃないか?」
息子の訝しむ様子が手に取るように伝わってきた。
それでいい。
そうして、息子の中のわしを壊し始めた。
*
「ついたよ。母さん」
わしを下ろして、玄関の扉を開けた。
迎えに来た嫁は、最初心配そうな顔をしておったが、わしを見てあっけにとられた感じだった。
そりゃそうだろうよ……。
このままでは、この夫婦に諍いが起こることは目に見えていた。
「ついたのか?ありがとよ。おや、これはべっぴんさんがいたもんじゃ。どこのどなたか存じませんが、よろしくおねがいします」
丁寧にお辞儀をする。
顔をあげて、二人を見る。
そろって表情をこわばらせていた。
「嫌ですよ。お義母さん。さあ、中に入ってください」
たちなおった嫁は、急いでわしを中に入れようとしていた。
このまま外にいたら誰かの目に留まってしまう。
わしもその意図には賛成だった。
ゆっくりとしか歩けないが、できるだけ急いで家の中に入った。
後ろで夫婦の声が聞こえる。
「あなた、どうなったの?」
「俺にもわからん。帰り道から、ああなんだ。あとで話すよ……」
混乱しているのが手に取るように伝わってきた。
玄関で立ち話をしている間に、わしは囲炉裏に向かい、息子が座っていたところに座る。
まずは、喧嘩は回避されたようだ。
最後にもう一度。
嫁も含めて壊していかねばならない。
こちらを見ているのは、わかっている。
囲炉裏の前で目を閉じる。
コクリコクリと舟をこぎ、おおげさに目を開けた。
あたりを見回し、やってくる二人を見つけたふりをする。
半分目を閉じた状態で、焦点を合わさずに尋ねよう。
「ところで、ご飯はまだかの?」
唖然とした表情で、息子はわしを見ていた。