小説

『UBASUTE』あきのななぐさ(『うばすてやま』)

家では、嫁と言い争いになるだろう。
わしを村人から隠すために、怯えて暮らすようになるだろう。
村人に見つかれば、諍いの種になるだろう。
下手すると、村八分にされかねない……。

なにか、方法はないだろうか?
この子が2度目の決断を、罪の意識を抱かずにできる方法……。
わしを捨てるということに、少なくとも抵抗が少なくなる方法……。

息子の背中で、わしは必死に考えていた。
迷わぬようにと折った枝。
それがやたらと目についた。

あった。
その方法。

多少困難ではあるが、わしの心は決まっていた。
観音様。
うそをつくことを、お許しください……。

 

息子に背負われての下り道、わしは手近にある枝を折り始めた。
「母さん、なんでまた、枝を折ってるんだ?」
予想通り。息子はわしの行動に反応した。

「何故ってお前、山道で、帰り道に迷わないようにだよ……」
心の中のわしをなくそう。
そうすることで、息子はわしを捨てやすくなるはずだ。

「母さん、もう大丈夫だよ、母さんが折ってくれた枝を頼りに進んでいるよ。
俺たちは家に帰るんだよ」

わしを背負いなおした息子は、力強くそう告げてきた。

「おや?そうだったかいな?」
息子を混乱させることになるかもしれない。
息子に後悔させることになるかもしれない。

でも、わしの行動は、息子にも、そして嫁にも心におもりを乗せずに済むはずだ。

「時に、おまえ。朝ごはんはまだかいな?」
背中があったかい。
昔は小さな背中だった。

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