「……という話なんですが。どうでしょう?」とカカシは憚り気味に聞き返す。
「こちらも憂鬱になるような話じゃの。だが、君も良い経験をしているではないか。話さないなんて勿体ない」と戦車は言った。
「うんなの、よくある話だよ。だから俺が言ったじゃないか。人間てのは悲しい生き物だってよ」と猫は欠伸混じりに言っていた。
「そうなんでしょうか……そうかも知れませんね」
カカシは感傷の想いで紫色の空を見つめ続けていた。
その時だった、足音が聞こえてきたのは。
ざっくざっくと雑草を踏みつぶす音。そしてやけに小さく鳴らせている事を。
カカシが誰かが近づいて来ていると思った時には、その主はもう側に来ていた。覗き込んでいた、カカシを。金髪がごわごわと広がってしまった少女が、空を背景に影を落としながらカカシを覗き込んでいた。
あっと少し驚いた、カカシは。こんな所に女の子? そぐわない存在に驚いたのだ。
「ほれ、お前の大嫌いな人間が来たぞ。逃げないのか?」と戦車が猫に言った。
「人間は嫌いだが、女の子は別もんさ。特にこの子はね」
猫はそう言いながらニャ~ンと甘え声を立てながら、車体を伝いながら女の子に近づく。女の子は久し振りとの身振りで、近づいて来ていた猫の喉辺りを車体下から撫で掻いて上げていた。
喉をゴロゴロ鳴らして答える猫。その様子に女の子がここに初めて来た訳ではない事は分かった。
「この子は……」
「最近、よく来るんだこの子は。毎日の様に。ここからの景色を見るのが好きらしい」と戦車が言った。
「この子の親は死んだらしいぜ、内戦で。独りもんさ、俺たちと同じに」と猫がカカシの疑問を感じとった様に答える。喉を鳴らし続け、横顔を女の子に掌に擦りつけていた。
女の子の服装を見れば決して見窄らしいとは言えない。元は白と水色の爽やかな婦人服だったろう。だが薄汚れ、擦り切れ、そうだったと痕跡を残す程度だ。そしてその服に合うであろう赤い靴を履いていた。それもまた服と同じに、汚れ艶を失い千切れ壊れそうな見た目だ。
一頻りに猫とじゃれ合うと、女の子はカカシの側に来た。倒れたままが気になっただろうか。
彼女はカカシの支柱となる棒部分を握った。そして持っては上げ、また置いたと思ったら上げるのを繰り返す。
カカシは彼女が何をしようとしているか気づいた。彼女は確認を止めると、近くの地面を素手で掘り返し始めたのだ。
あ……そんな事しなくていいよ。私は寝たままでも十分だよ。