小説

『丘の上の魔法使い達』洗い熊Q(『オズの魔法使い』)

 人間が起こす戦争は悲惨なものだ。この周囲の土地でも例外なく内戦があった。
 殺し、殺される世界。それだけじゃない。憎悪に飢餓。それらも跋扈する混沌の世界だ。
 そんな世界の中で俺らはどうすれば良いのか? そうさ、餌を探すのさ。生き延びる為に、生き残る為に必死になってさ。食えるもんを探すのさ。
 荒廃、破壊つくされた町に何があるか。気前よく道に熟れた果物など転がってはいない。
 転がっているのは人間さ。人間の死体だよ。
 それに群がるのは虫達。どこにでもいる自然の掃除屋だ。そしてそれを喰いに現れるネズミ達。ここら辺りのネズミは貪欲だよ。虫だけで飽き足らずに人間も喰ってゆく。
 だから中には丸々太ったネズミもいるんだよ。人間達は痩せ細っていくのにな。そう、それを俺は狩るのさ。
 砲火が収まりを見せた町。幾らかの静寂が訪れている。もう行けるだろうと思い、俺は多少の緊張と慎重さを持って町に繰り出す。
 ひょいと高目に周囲を見渡せば。
 いたよ、いたよ、丸々太ったネズミが。瓦礫が散乱する道のど真ん中、のんきに何か手に持って食べてやがる。
 思わず舌なめずりをして、俺は臨戦態勢。身を低くして忍び足で奴との距離を縮めてゆく。
 今思えば、その時は周囲の警戒を怠っていたのが俺の失態だった。久し振りのご馳走に浮き足だったんだろう。
 ゆっくり、一歩一歩と忍び寄る俺。奴は気づかない、喰う事に無我夢中だ。
 もう無理して飛びつけば何とか届く、そんな考えがよぎった瞬間だった。
 バッーンって――銃声が響いた。
 そしてネズミと俺との丁度中間、転がっていた石が弾け飛んで土煙が舞い上がった。
 思わず身が凍ったね。俺もそうだったがネズミもそうだったろう。だが一瞬でそれが解けたネズミは一目散に逃げて行きやがった。
 俺の生涯の大失態だった、その時が。俺は本能に逆らう様に見ちまったんだよ、銃声のした方向をさ。
 ばっと見据えたその先には――塀の上に陣取って座っている数人の若者が。それぞれに皆、ライフルを担いでやがる。その内の一人が銃を構え、こっちへと銃口を向けていやがった。
 そうさ、俺は狙われていたんだ。それに気づいて青ざめた。
 ああいう時って不思議なもんだな。俺って目はそんなに良くない筈なんだが、くっと遠目にいたそいつを睨んだんだよ、憎悪も怒りも込めてはいないんだが。
 ――奴は笑っていやがった。

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