小説

『丘の上の魔法使い達』洗い熊Q(『オズの魔法使い』)

 照門に片目を据えながら、歯を見せて、にやついた感じだった。それが見えたんだ。
 その表情見てすぐ理解したね、俺は。こいつら遊びで銃を撃ってやがる。そう、憂さ晴らしに俺を撃とうとしている。すぐ察して、そして感じた。死の覚悟って奴をな。
 猫を殺したら呪われるんだぞ、九つの残りの命を使って子々孫々まで祟られるんだぞ~! なんて訳の分からん迷信を唱えて足掻いたってしょうがない。もう俺は動けなかった。本能に従って逃げれば良かったのにな、さっさっと。
 後悔しながらも、俺は目を反らさずに俺は奴を睨み続けていた。単に負けず嫌いな性分か。ただ魅入られていたのかもな、ほくそ笑んで俺を殺そうとしている奴の顔に。
 もう終わりだ。覚悟ってのがよぎった瞬間だった。
 ――男の頭が破裂した。熟れた果物の様に、中身の果汁が飛散した。
 息を呑んだ。だが見続けていた男の顔は笑ったままだったんだ。
 男は血を撒き散らしながら、塀の向こう側へと倒れ落ちていった。束の間、俺も周囲にいた男の仲間達も茫然と倒れていく男を見つめていた。
 だが次の瞬間には狂乱さ。仲間の男達は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。塀に隠れたり、足を縺れさせながら建物に隠れ込んだりと。
 何が起こったか。俺が知ったのは遠方から響く銃声が聞こえてからだ。ドドーンって。
 それが合図の様に、俺も逃げ出していた。
 走りながら俺は考えた、何が起こったか。そして理解した。あの遠くから聞こえた銃声。
 スナイパーて奴だ。遠方から敵を狙い撃つ。そいつが男の頭を撃ち抜いたんだ。
 それが分かると俺は思わず嘲笑した。へっ、ざまあみろってんだ。俺を殺そうとした天罰だ、と思ったね。そして感謝した、撃った狙撃手に。もしか俺を助けてくれたのか、そうも思った。
 息が上がるほど走り続け、高揚した気分が落ち着きを取り戻した頃だ。俺は最初に感じた事は間違いじゃなかったと思う様になっていたんだ。
 ――撃った奴も、ほくそ笑んでいたんじゃないか? 引き金を引く瞬間に。
 そうさ。人間て奴は同胞を殺す時にも、そして死ぬ瞬間でも。
 笑うのさ。恍惚に。
 何故か? 楽しいに決まっている。
 つまり戦争って言うのは人間にとっては楽しいものなのさ。だから続くのさ、起こすんだ。
 生涯とは辛辣な事もあるが、愉快な事もごろごろある。だが人間の世界には、そういうのが無いんだろうな。
 悲しい生き物だ。楽しい事を得る為に殺し合う。そういう境遇なんだと俺は悟ったよ。

 

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