「あんた山守の仕事はわかっとるん?」
「そいが、なあんも知らんのよね」
「なあんにもかいね!とんだ呑気者やなあ」
兎が大層気に入ったようで笑い転げている。
「そうはいうても誰にも教わらかったんやもん」
「まあまあ、あの白毛玉はほおっておきなっせ。あんたさっき火縄撃ったやろ?」
「そう、それや!なんでか身体が動きよったんよ!」
「不可思議なことはお互い様でな、あんたの山守の血がそうさせるんやろね」
ようやく平静を取り戻した兎も続く。
「この山では狸と兎が喧嘩したら山守さんに仲裁してもらうことになっとるんよ」
「それが山守の仕事なん?」
「そうや、剣呑なあんたでも気づいたやろが、その時計が合図や。ああなったら儂も、この茶達磨も訳がわからんくなるでな。そうなったらズドンや」
「ズドンいうたって、わたし銃なんて物騒で扱えんよ。それに犯罪ちゃうん。未成年やし免許ないしやなあ。しかも女子高生やで」
兎は、新しい山守をたいそう気に入った様子で、茶気を込めて言う。
「ほんまに間抜けさんやなあ。扱っとったやないか。まあ今度とも頼むで」
「ちょっと待ってえな。まだ訳がわからんのよ。そもそもあんたらがしゃべることだって」
尻尾を楽しそうに振りながら、狸が応える。
「そりゃ分からんよなあ。実際わしらが分かることもあんたと同じや。不思議な山の獣と山守の話やね」
「はっは、その通りや。そいたら宜しゅう」
そう言うと、獣たちは森の帳に溶けていく。
女子高生と奇妙な獣たちの邂逅は、こうして終えたのだった。
季節は巡り、街の景色から、山の装い、女子高生の制服までもが衣替えを終え、白い吐息を漂わせながら、月子と蛍ふたりは、自転車押し歩く。
山守になって半年、月子は立派に務めをこなしていた。
時計がかちかちと音を鳴らすと、山へと駆けつけ。かちかち火縄を燃やして銃を放つ。
狸と兎の諍いをこうして収めるのだ。