小説

『オカシノオウコク』洗い熊Q(『ヘンゼルとグレーテル』)

「……うん」
「もし、二人とも欲しかったり、大切なものだから上げられないんだったら、お姉ちゃんにちゃんと言って? もしかしたらお姉ちゃん、二人のためにタケノコのお菓子、買ってきて上げるかもよ?」と真理子は二人に笑顔を向け答える。
「うん……わかった」と男の子は涙を拭きながら頷いた。
「そう。良かった」
 真理子が男の子を撫でていると、立ち上がった令子も近づいていた。
 そしておずおずと令子は男の子に何かを手渡す。
「……たっくん、これあげる」
 片手一杯に握りしめたタケノコのお菓子だった。
「いいの……れいちゃん?」とそれに驚いて、また男の子は涙がこぼした。
「うん。よくかんがえたら、いっぱいはいらなかった。だから、たっくんにあげる」
「ほんと? ……あんがとう、あんがとう」
 泣く男の子を笑うように、令子が笑顔を返した。
 本当は優しい子なのに――真理子はその光景も見て思った。
 令子が菓子を取られそうになって喚くのは初めてではない。
 この子は頑なだ。自分の物を取らそうになると、狂ったように喚き散らす。
 だが要らなくなった菓子は気前よく配る。その不均一な行動は不安を感じずにはいられない。
 受け取ったお菓子を男の子は半べそでポリポリと食べながら、家作りを再開した令子の側に座る。
「れいちゃん……なんでいつもいえつくってるの?」
 男の子が聞いた。仲直りした自然の流れ。言葉を繋ぐきっかけのつもりで。
「“けいやく”したから、つくんなきゃいけないの」
「けいやく?」
「そう。だいじなことなんだって」
 真理子はそのやりとりを聞いて驚いた。
 今まで他の職員や、年上の子達が令子に聞いても言わなかった事。作為の無い流れに思わず答えてしまったのだろうか。
「だいじなこと? れいちゃんがいえをつくるのが?」
「うん。おかしの……おうこくはずっとつくんなきゃいけなんだって、いってた」

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