「ぜったいにだめ! だめ! あげないっ! いやゃゃーー!」
「うっうっ……ちょっとだけって……うっうっ……」
思わずに泣いていた男の子に寄り添い、宥める真理子。
何があったかと聞く前に状況が予測できた。きっと男の子が、令子の持っていたお菓子が欲しいとでも言ったのだろうと。
「いやーー! いやーー! いやっーー!!」
令子の奇声のような喚き。金切り声が神経に障る。一瞬だが怒鳴り叱りつけようと思った。
声を上げようと口を開けた瞬間、真理子の目に映る。令子の背中が。
項垂れ現れた、襟首から垣間見る彼女の背中の一部。其処にある、染みのように黒ずんだ大きな痣が。
施設に来てから見つけた。令子の背中にある複数の痣を。
服に隠れる場所を選んだような痣に悪意を感じた。
堅い物で殴られたような。人の拳の形のままのも。
施設に来て半年以上経った今も、その痣は消えない。
真理子は叱り声を飲み込み、それを溜息に代えた。
そして泣く男の子に宥め伺う。
「どうしたの? たっくん」
「うっっ……れいちゃんに、そのタケノコのをちょうだいって……うっ……とったの」
「そしたら令子ちゃんが怒っちゃったんだ?」
「……うん……ぐすっ」
「令子ちゃん? 令子ちゃんにとってそのタケノコのお菓子は大事な物なんだよね?」
真理子の優しい声が聞こえ、令子は奇声を止めて机にしがみついたままに、睨みつけるように顔を上げた。
「……うん。そう」と静かに令子が答えた。
「たっくん、令子ちゃんが大切にしてるんだって。ちゃんと令子ちゃんに聞いたのかな?」
「うんうん……してない……」
「令子ちゃんはちゃんとその事をたっくんに伝えたかな?」
「……いってない」
「じゃあ、どちらもちゃんと言ってないんだね。二人とも先ずは聞かなきゃね? どちらも悪くないよ? でも叫んだり、泣いたり、そうする前にちゃんとその事を言わなきゃいけないの。わかるよね?」
「うん……ぐすっ」