小説

『オカシノオウコク』洗い熊Q(『ヘンゼルとグレーテル』)

「うん! もってきて、もってきて~」
「はい、はい」
 ――お兄ちゃん。
 施設の子たち以外、令子が大人でちゃん付けをする存在。
 母親の元不倫相手の男性。
 若く、目を引く風貌だが、見た目とは違い子供に優しい。
 保護対象になるきっかけであり。
 今でも令子の事を気にかけてくれる他人。母親とは別れ、随分と時間は経過しているが。
 令子が来てから月に一度は施設に連絡をし、令子の近況を聞く。
 そして彼女の要望に応え、大量のお菓子を贈ってくれる存在。
 彼からのお菓子に加え、施設から支給される少額の小遣いも菓子代へと使う令子は、家創りの材料に事欠かない。
 甘やかしている。
 そうは思えるが、この子にとっては唯一の愛情を与えてくれる存在。真理子はそう感じていた。
「れいちゃん、またつくってんの~?」
 この施設に一緒に住む同世代の男の子。小走りしながら近づき、令子に聞いてきていた。
「うん、たっくん」
「なんこめ~? いっぱいつくったよね?」
「わかんないよ。いっぱいつくったよ」
「そうか~いっぱいつくんたんだ」
「たっくん、またクズあげるね」
「うんっ、またクズちょうだい」
 ――クズ。令子はお菓子の残り物を、そう総称する。
 壁や屋根を、細かい装飾を、令子は作り上げるのに菓子を細かく切り刻む。
 切り取って使わない部分、使えない部分の菓子の残りが大量に出てくる。
 無論、自分でも食べるが、大半の余り物を令子は施設の他の子達に分け与える。
 気前よく菓子をくれる彼女は、施設の中では好まれる存在だ。
 それの御陰で、他の子達との繋がりが出来た。
 だが、彼女にとって不要な物。
 クズ。
 そう表現する度に、真理子は心にちくりと刺す痛みが走る。この子はそう呼ばれていたのだろうか。

 

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