小説

『対価』久保沙織(『人魚姫』)

 明日、マスターからいつ電話かかってくるかな。恋をするのって楽しいんだな。うきうきとワクワクが私を取り巻く最中、私の意識はぷつんと途切れた。

「うそ…うそでしょ…」
 目を覚まし、シャワーを浴びようと浴室に向かうと、醜い頃の私が戻っていた。
「なんで今日に限って!」
「マスターから誘われるかもしれないのに…」

 すると突然電話が鳴った。

「マスターからだ…」
 本当に連絡をくれたことに驚きながら、私は電話に出た。

「もしもし」
『おはよう。俺だよ、わかる?』
「はい。わかりますよぅ」
『今日良かったら一緒にランチしない?』
「え?いいんですか!?是非行きたいです!」
『ほんと?よかった、じゃあ」

 こんなにもトントン拍子で、物事は進んでいくものなのだろうか。
 顔って大事なんだな。つくづくそう思う。

 シャワーを浴びながら私は考えた。
 さて、マスターと会うには、この状態を切り抜けないといけない。もう一度、あの薬を服用する時が来た。効果は一週間くらいって分かったし。三粒で一ヶ月分。
 本来ならば、こんな薬飲まない方がいいんだろうけど、私はこの薬のおかげで恋をする気持ちを知れたのだ。

「胸を大きくすることもできるのかな…?」

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