「…失礼します。」
座り心地の酷さの所為も多少あるが、その椅子に腰掛けた際、目線に広がる新しい職場の全貌に愕然とする。
「驚きなすったかい?」
「えぇ…いや…。その…。」
大我が配属された人事部三課は本社四階の片隅にあった。同じフロアの母体である人事本部や秘書課とは明らかに一線を画しており、まるで倉庫だったスペースを無理矢理にもオフィスへと作り替えたような粗末さだ。十畳有るか無いかの狭いスペースの中、両脇の棚に乱雑に積み上げられた段ボール箱の山や資料や備品など、まさに誰がどう見ても倉庫だ。そこに適当に机と椅子が並べられているだけの簡素な作り。
「あの、ここって人事部三課…ですよね。」
「そうじゃよ。」
「…ですよね。」
「てか、アンタ何したの?その若さで。」
「え?」
狭い部屋の奥から気怠そうな女性の声が聞こえた。新しい職場の思わぬ佇まいに気を取られ気付かなかったが男性の他にもう一人、30代前半くらいの女性がいた。彼女もまた就業中であるにも拘らずネイルケアに没頭している。
「彼女はこの課のマドンナの栗原イズミちゃん。そしてワシは一応この課の責任者やっとります根津と言います。よろしく。」
「マドンナって古臭い表現やめてよ~、元々オンナは私しかいないじゃん。」
「お二人だけなんですか!?」
「当然でしょ。こんな何もない課に…。で、何やらかしたのよぉ?」
「やらかした?」
「まぁまぁ、そこらへんのことはこの際、いいじゃないですか。止しましょう。」
「いや、あの…。」
「んなこと言ったてさぁ、どうせ後々分かる事だし。何でこんなとこ飛ばされたかってさ興味あるじゃん。見た感じ素行不良って訳じゃなさそうね。差し詰め成績不振ってとこかしら?因みに私は専務との愛人契約のゴタゴタで。って冗談よ、冗談。」
「ちょ、ちょっと待って下さい。あなた方の言い方からして僕はまるで左遷されてここに来たかのようじゃないですか?」
「ん~、左遷の方がマシだったりしてぇ。」