小説

『クリとネズミとタイガーと』柏原克行(『金の斧』)

「ここは表向きは三課ってなっとるが、そもそも人事部には人事課と秘書課との二つしかありゃせんかった。」
「では、この三課っていうのは…。」
「うふふっ、傘下。傘の下にあるってことらしいわよ。平たく言えば人事部には属しちゃいるけど上、つまり執行部がやりたがらない仕事を押し付けられてる部署よ。」
「やりたがらない?」
「そう。恨まれ役!」
「ここでの主な仕事は、なんつーかその…リストラ社員の選定じゃよ。」
「え!?」
 思いも寄らぬ事実を突きつけられた。時折、窓を揺らす外の天気よりも大我の心の中は大荒れ模様だ。いきなり異動を命じられた、その先がまさかの首切り役人であったのだ。彼らの話によれば年度末に向けて上から降りてくるリストラ候補者リストの中から当該社員を誰にするのか決定する。つまり三課はリストラにおける生殺与奪の最終決定権を与えられている陰の機関なのである。
「なんで僕が…。」
「お前さん第三営業部出身じゃったか?」
「えっ?ハイ。」
「あそこはウチの会社の中でも一番のリストラ候補者の掃き溜めだものねぇ。内情をよく知る者がいれば仕事も捗るってもんよ。」
「そんな…知らなかった…。」
 大我には心当たりがない訳ではなかった。確かに言われてみれば第三営業部には急な異動や退職者が当たり前の様に年に数人は出たが、会社とはこんなものなのだろうと何の疑いもなく漠然とそして只、愚直なまでにそう思い込んでいた。だから自分がいざ急な異動となっても驚きはしたがすんなりと受け入れられたのだ。だが、だからと言って大我がここに配属された意味まではこの時はまだ知る由もなかった。

 色々と戸惑うこともあるが正式な辞令である以上、一社員が易々と逆らうことは到底出来ないのがサラリーマンの性である。多少のわだかまりはあったが大我は郷に入れば郷に従う覚悟を決めた。前向きに兎に角一生懸命、それが大我の持つ仕事観である。
「今月中までには候補者リストの中から誰をリストラするのか決めていきます。で、各所属長にその結果を、お伝えせにゃなりません。」

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