もう一度、詩絵良に会うために。
「今、詩絵良ちゃんいる?」
胸が締め付けられた。状況を理解はしているものの、信じたくなかった。頭の中が真っ白になって、指先が冷たくなるのを感じた。
「……うん。ちょっと待ってて」
私は詩絵良を呼ぶ。お隣の真帆ちゃんがかけた魔法はとっくに解けていて、今日はいつものダサい詩絵良だ。でも、大路はそんなことで幻滅しないだろう。大路は、見た目じゃなくて中身を好きになる人だ。
詩絵良は大路に呼び出され、出て行った。
二人とも、私がここにいることを忘れているみたいだった。私はまるで、脇役だ。
ふと、気づいた。
私は、主役の座を奪われたのではない。私の人生においては私が主役であるように、詩絵良にとっては詩絵良が主役なのだ。詩絵良の物語の中では、私はもともと「いじわるなお姉さん」という脇役だったのだ。大路にとっても、ヒロインは詩絵良で、私は「友人A」だ。
静かな午後の玄関で、私は泣けないまま立ち尽くす。今始まろうとしている恋物語のことを思う。脇役でも、私はこんなに苦しい。