小説

『シンデレラの姉』吉田舞(『シンデレラ』)

 この地獄のような時間が永遠に続く気がして、時計を見た。もうすぐ詩絵良の帰る時間だ!
「詩絵良、そろそろ時間じゃない?」
 私は言った。三人で階段を下りているときだった。
「えっ、もうそんな時間!?」
 慌てた詩絵良は階段を踏み外しかけ、その拍子に来賓用スリッパが脱げた。大路はとっさに詩絵良の体を支え、「慌てすぎだし」と笑いながら脱げたスリッパを拾ってあげた。
 結局、大路と二人きりになることはなかった。詩絵良が帰ると用事が終わった友人たちが合流し、みんなで後夜祭を楽しんだ。そのあとはクラスの打ち上げだった。
 楽しかったけど、私はずっと、モヤモヤしていた。
 詩絵良の水色の浴衣。甘ったるい声。上目遣い。
 思い出すたびに、嫌な胸騒ぎがした。

 
 翌日の日曜、家にいると大路からラインが来た。話したいことがあるから今から家に行っていいか、という内容だった。
 大路に会える!
 胸がドキドキした。返信し、一番可愛い服に着替えた。
 午後、大路が来た。大路は家の中に上がろうとはせず、玄関に立ったまま、ポケットから何かを取り出した。
 大路の手の中でキラキラしているのは、青いガラス玉がついたヘアピンだった。
「これ、杏音の?」
「……違う」
 それは、昨日詩絵良がつけていたものだった。おそらく、大路も気づいている。
「やっぱり? 昨日、三人でいたときに階段で拾って。杏音か、……詩絵良ちゃんのだろうなって」
 たぶん、詩絵良が階段で転びかけたときに落ちたのだろう。スリッパを拾ってあげた大路は、そのときにこれも拾ったのだ。
「これ、返そうと思って……」
 あぁ、そうか。
 あの嫌な胸騒ぎは、やっぱりこういうことか。
 ガラスのヘアピンを拾ったとき、大路はその場ですぐに詩絵良に渡すこともできた。そのあとも、私に渡すタイミングはいくらでもあった。でも、そうしなかった。

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