小説

『シンデレラの姉』吉田舞(『シンデレラ』)

 私が詩絵良に来てほしくない理由は、友達に見られたくないからだけじゃない。
 一番の理由は、大路だ。
 私は、同じクラスの大路のことが好きだ。いつも私と大路を含めた六人グループで行動している。
 大路は優しくて面白くて、たまに小学生みたいな言い間違いをするところが可愛い。いつも笑っていて、大路といるとみんな楽しくなる。
 だから当然モテるけど、今のところ、告白はすべて断っている。理由は「本気で好きになった子じゃないと付き合わないから」。嫌いじゃないならとりあえず付き合ってみる、という発想がないのだ。
 それを知っているから、私はなかなか告白できずにいる。学校で大路と一番仲がいい女子は私だけど、大路が私のことを恋愛対象として好きかというと、自信がない。もし大路が私のことを何とも思っていなかったらかっこ悪いから、友達に探りを入れてもらうこともできない。
 でも、もしかしたら。
 学校祭で、二人きりになれたら。いつもと違うシチュエーションなら、大路が私のことをどう思っているか、探れるかもしれない。
 学校祭は、私にとってチャンスなのだ。
 詩絵良が来たら、かまってかまってと私にベタベタしてくるに決まっている。でも私には、詩絵良にかまう余裕はないのだ。

 
 学校祭当日。クラスの模擬店の当番が終わり、グループのみんなで校内を見てまわった。お昼になると、一人、また一人と部活の出し物のために抜けていき、私と大路は二人きりになった。
 学校で大路といるのはいつものことなのに、にわかにドキドキしてくる。どうってことない会話が、いつも以上に楽しい。
 大路と喋りながら歩いていると、聞き覚えのある声で呼び止められた。
「杏音ちゃん!」
 振り向いて、愕然とした。
 水色の浴衣を着た美少女がいた。
「!?」
 別人のように変身した詩絵良だった。
 肌は陶器のように白く、頬と唇は桜のつぼみのようなピンク。黒目がちな瞳は清楚な印象で、水色の浴衣によく似合っている。透明感があって上品で、どこから見ても美少女だ。

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