小説

『シンデレラの姉』吉田舞(『シンデレラ』)

 それに、親が離婚して再婚したのは私だって同じだ。
 なのに、なぜ詩絵良ばかりが悲劇のヒロインなのだろう。
 先生も親戚も近所の人も、「杏音ちゃんはいつも元気ね」と言い「詩絵良ちゃんはトラウマがあるのに健気でえらいね」と言う。
 もしかしたらみんな、私が詩絵良をイジメていると思っているのかもしれない。
 だとしたら、それはかなりステレオタイプなイメージだ。私が色黒ではっきりした顔立ちで、「マジ?」「うぜー」などの若者言葉を多用するスクールカースト上位者だから、色白で女の子らしい優等生の詩絵良を虐げていそうに見える。
 ただそれだけのことだ。

 
 私は高校生になり、詩絵良は中二になった。
 中二になった詩絵良は、いい子アピールに加えてやたらとかわい子ぶるようになり、ウザさが増した。そんな詩絵良との距離はもちろん縮まっていないが、表面上は穏やかな姉妹関係を築いている。
「詩絵良、杏音ちゃんの高校の学校祭行きたいな」
 夏の終わりのある日、詩絵良が言った。学校祭は来週だ。
「えっ」
 来てほしくない。こんなイケてない妹、友達には見られたくない。
「来ないほうがいいんじゃない。うちの学校オシャレな子多いしさ、詩絵良は独特だから浮いちゃうと思うよ」
 詩絵良は相変わらず、甘ったるい服を好む。いっそのことロリータ系や姫系なら「そのジャンルの子」として認識できるのだが、どのカテゴリにも分類しにくい絶妙にダサい服ばかりをチョイスするのだ。しかも、日本人形のような量の多い黒髪をポニーテール(日によってはツインテール)にし、メガネをかけている。パッと見ただけでもうイケてない。
 でもよく見ると、顔は悪くはないのだ。目が小さい地味な顔立ちだけど、パーツの形は綺麗だしバランスも整っている。本人も自分を可愛いと評価しているからこそ、ぶりっ子になるのかもしれない。
「来ないほうがいいよ。浮いちゃったら詩絵良だって楽しくないでしょ?」
「詩絵良、気にしないから大丈夫だよ」
 私が気にするんだよ、このバカ。
「学校祭って土曜だよ? 詩絵良、ピアノあるじゃん」
「あ、そっかぁ。残念」
 詩絵良が諦めてくれて、心の中で安堵のため息をついた。

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