小説

『シンデレラの姉』吉田舞(『シンデレラ』)

 ピンクを好み、フリルやリボンを身につける。詩絵良は、地味な顔立ちのうえにメガネをかけているから、乙女チックな格好をするとすごくダサい。お姫様が大好きで、花やバレエを見てはうっとりし、「もしも魔法が使えたら小鳥さんたちとお喋りするの」などと言う。趣味も言動もすべて、いかにも詩絵良という名前にふさわしいお花畑感だ(まぁ、私だって杏音と書いてアンネだけど)。
 詩絵良の痛さは少女趣味だけが原因ではなかった。
 詩絵良は度を越えた優等生なのだが、何をやっても「私いい子でしょ?」というアピールに見えるのだ。そして、おとなしそうなわりに意外と目立ちたがり屋で、グイグイ前に出るタイプだった。
 そんな詩絵良は当然、転入先のクラスでも浮いていたようだ。
 とびきりの美少女でもないメガネがフリフリの服を着て優等生アピールすれば、そりゃあ引かれるだろう。深刻なイジメに遭っている様子はなかったけど、当然のようにぼっちだった。

 
 五年生になった頃から、スクールカーストを意識し始めた。当時はまだ「スクールカースト」という言葉こそ知らなかったけど、その概念が存在することに気づいたのだ。
 私は、スクールカースト上位グループにいた。
 意図したわけではない。気づいたら、そうなっていた。そういえば保育園の頃から友達が多かったし、泣かせてしまうことはあっても泣かされることはない。思ったことを言っているだけなのに「明るく活発な子」「リーダーシップがある」と言われてきた。
 カーストを意識し始めると同時に、詩絵良がぼっちだということも気になるようになった。
 いくら血がつながっていないとはいえ、私の妹がぼっちだなんて。私のクラスにも、みんなからなんとなく敬遠されているぼっちの子がいる。詩絵良のクラスでは、それが詩絵良なのだ。そんな恥ずかしいこと、友達には絶対に知られたくない。私は、詩絵良が妹だということを隠すようになった。
 なのに、友達のハルナに言われた。
「ねぇ、杏音の妹ってぼっちみたいだよ」
 最悪だ。ハルナの妹が詩絵良と同じクラスらしい。二学年下に妹か弟がいる子は多く、ぼっちの妹がいる事実は隠し通せそうになかった。
 その後ハルナから聞かされたエピソードに、私はますます最悪な気分になった。
 詩絵良は学級委員長だ。ぼっちのくせに自ら立候補したのだ(立候補するからぼっちになるのか)。そのクラスではメダカを買うことになったのだが、あろうことか詩絵良は自ら司会を務める学級会で、メダカの名前を「キャンディちゃん」と「メロディちゃん」にしようと提案したらしい。当然、クラス中から「くそダセー」と反発され、詩絵良は机に突っ伏して泣き出したというのだ。

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