小説

『カノン』柿沼雅美(『花をうめる』)

 「ほんとだね、花音かわいいー」
 私が戸惑っているのも焦っているのも斎藤くんにバレないようにするのが一番と分かっていながら、花音に聞きたいことがありすぎて、戻ってきたら何から聞こうかと気持ちを落ち着かせるのでいっぱいだった。
 「これ絶対付き合ってるよなぁ。っつーかもうバレてる感じなんだよ、アカ繋がりであいつのもバレてる。ほらこれ」
 斎藤くんが得意気に画面を私の目の前に差し出す。
 「え、そうなの? わ、ほんと。やばいじゃん」
 「まぁまだメジャーってわけじゃないし、今は付き合ってないかもだし、テレビで話題になるようなもんじゃないんじゃねーの」
 「そっかそっか」
 気にしてないよって顔をしながら、目で画面の中のアカウント名を見つめた。私が知っているのとは違う花音のアカウントだった。
 「ってかおまえら仲いいのに、何も聞かされてないの?」
 「いや、まぁ男の人がいるのはまぁ」
 「知ってただろ? ほらやっぱなぁ。やっぱ女は年上の男ばっかり見んのかなぁ、俺ちょっと狙ってたんだけどなぁあいつ」
 「え、そうなの? だめだよ」
 「だめってなんだよ」
 そう言いながら斎藤くんが笑った。
 「うそうそ。俺あいつのただの幼なじみだもん」
 「うん、花音もそう言ってた」
 「うるせーよ」
 また斎藤くんが笑う。ほんとにただの幼なじみなのかな、ほんとは花音のことずっと好きなんじゃないかな、と思いながら斎藤くんの顔色を伺った。
 「すげーなーって思って本人に言っちゃったけど、別に拡散したいわけじゃないからってあいつに言っといて」
 「あ、うん、そうだね。花音優しいし、大丈夫だと思うよ。ってか、戻ってこないからちょっとはインスタ見つかったこと気にしてるのかも。どこ行っちゃったんだろ」
 「あそこじゃね? 裏のとこ」
 「さっき居たばっかだよ? っていうかあそこ何かあるの?」
 「昔さ、なんだっけな、遊びがあって。ドロケイとかそんなふうに名前があるような遊びじゃなかったんだけど、だるまさんがころんだっていうのの要領でさ、一人が目つぶってる間に、他の子供が道端とか公園の花をむしって、地面にお茶碗くらいの穴をあけて、そこにその花を埋めるわけ。土かぶせるんだけど、落とし穴みたいに他の地面と違いが出ないようにちゃんと砂の色とか合わせてさ。で、目瞑ってた子は目あけたらその場所を探して、まわりもそれとなく誘導してさ、指で穴あけてその小さなところから花を覗くんだ。っていう遊びが花音大好きだったんだよたしか。だから未だに、土が柔らかい花壇とか、ちょっとスペースのある地面があると、その場所が落ち着くんだって前に言ってたんだよ。だから、ただそれだけの理由だと思う」
 「へぇ、そんな子供時代があったんだねぇ。いいなぁ私も一緒に遊びたかったぁ」

1 2 3 4 5 6 7