小説

『カノン』柿沼雅美(『花をうめる』)

 校舎の裏の花壇のところに花音がいたよと、教室に戻って来た友達が教えてくれて、私はすぐに追いかけた。後ろから、いくら仲良しアピールしたくたって休み時間からい別々でいいんじゃねー、と男子の声が聞こえた。
 階段を降りながら、私のいないところでどの女子と一緒にいるんだろうとか、まさか私の悪口なんかを言ったりしてないよね、と思いながら、一段飛ばしで着地した。キュッと鳥肌が出そうな上履きの音が大きく広がった。
 昇降口を曲がってすぐに、裏に向かうと、花音がもう使われていない花壇の前でしゃがみ込んでいた。
 「花音!」
 私はスピードを落とさずに走り寄った。
 「え」
 花音は背中を少しだけびくっとして、空にひっぱられたように見えた。
 「なにしてるのー」
 私はそう言って息を整えるために鼻から息を吸い込んだ。
 「べつになんでもっ。ミカこそどうしたのこんなとこで」
 「花音がこっちにいたって聞いたから、何してるのかと思って」
 なんでもないよ、と言いながら、スカートの裾をパンとはたいて、花音が立ち上がった。
 「花でも植えてるのかと思ったー」
 私が言うと、花音はそれいいね、と笑った。
 「でもこんなに桜の木があるから、ここに植えても負けちゃいそうだよね。それでこの花壇使わなくなったのかもしれないよね」
 春になると桜の咲き誇るこの場所は、告白スポットにもなっているのを思い出した。
 「もしかして、花音誰かに告白された?」
 「そんなわけないじゃん、っていうか告白されたり誰かと付き合ってたらもうバレるでしょ、ミカにはさすがに」
 私にはさすがに、という言葉が自分と花音の距離の近さを表しているようでくすぐったい思いがじわっとくる。
 「もう行こっ。あ、自販機でジュース買いたい」
 「いいね、私もちょうど喉渇いてるんだ。花音はまたグレープフルーツジュース?」
 「またってなにまたって。そんなに飲んでるかな。そういうミカだっていつもイチゴミルクじゃん」
 「そうだけど」
 言い合いながら昇降口を入り、購買へ向かった。

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