小説

『熱海の魔女』伊藤なむあひ(『ヘンゼルとグレーテル』)

 わたくしはというと、ようやく自分が『グレーテル』だということを受け入れられるようになり少しづつ山の下にも行くようになりました。明後日はお気に入りの喫茶店のアルバイトの面接を受けることになっています。熱海の山から出ることのないと思っていたわたくしに、まさかこんな変化があるとは思いませんでした。
 ある日、ふと思い付きわたくしは例のホワイトチョコの日記帳を開きました。
【ある魔女は『ヘンゼル』と『グレーテル』の父娘によって、熱海の山の中にあるお菓子の家のかまどで焼き殺されてしまいました。そして父娘は幸せに暮らしまいた。】
 わたくしの子孫となる『グレーテル』たちがこれを見つけるかは分かりませんが、Gritterには書けない秘密としてわたしはそう書き残したのです。

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