小説

『REBOOTER / リブーター』結城紫雄(『変身』カフカ)

「お前の能力を活かせるところがあんだよ」白石の言う仕事とは小さな解体業者だった。大方両親のコネだろう。
「鉄屑をプレスしてる工場なんだが、プレス機が前からガタがきてるらしいんだな。んで新しい機械が一千万円もするんだと。町工場にそれはいきなり無理だって話で、僕がお前に声をかけたわけ。前、車でもぺちゃんこにできるって言ったろ。その怪力でちょちょいと頼むよ。向こうの金が工面できるまででもいいんだ」
「やだ」
「なぜだ」
「働きたくないでござる」
「なあ、お前もいい年だろう。親御さんそろそろ安心させてやれよ」
「やらない」
「給料はずむぜ」
「断る」
「『Q’s』のライブからツアーまで行き放題だ」
「ぜひやらせてください」
 悲しいかなカズトは声優おたくであった。
「先方にお前のことは言ってあるから大丈夫だ。今日は顔見せだけだからさ、こないだのハサミのアレ、やってくれよ。車出してくる」
 仕事場へと向かう白石のベンツの中、上機嫌な白石に対してカズトは不安の色を浮かべていた。
「白石が俺をなんて紹介してるのか気になるな」「コスプレおたくのプロレスラー崩れだって」「そんなやついるかなあ」「メキシコにはたくさんいる」
 白石のメルセデスは下町の町工場へと走る。

 大人がやっと持ち上げられる重さの鉄板がカズトに渡される。従業員が彼を囲み、興味深げな目を向けていた。まるで見世物だ、とカズトは昔教卓でパンツを脱がされたことを思い出す。高圧的な白石も気に食わないが、観念したカズトは鉄板に手をかけ、ボール紙のようにくるくると筒にした。
「おーッ」筒状になったものをさらに折り曲げ、バレーボールほどの鉄球にする。拍手喝采。
「ライター!ライター!」沸き起こるライターコール。
「流石だな。あ、工場長、明日からこいつお願いします。あー大丈夫、その件は親父に言っときますから。とりあえず僕のマージンがですね……」

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